今回は、「カスタマージャーニーマップ」について紹介します。まず「カスタマージャーニーマップとは何か」基本的な内容から見ていきましょう。
DESIGNER
Y.K.
私はブランディングの仕事に関わるまで、カスタマージャーニーマップというものを知りませんでした。でも一度作成してみると、それは「何かモノを創るときの準備段階として一番重要なツール」だと感じました。
まず、カスタマージャーニーマップの意味を簡潔に理解できるよう、私なりに分かりやすくまとめてみました。
カスタマージャーニーマップは、かんたんに言うと「顧客がサービスや製品を利用する際にたどる経緯を作成者が想像しながらマッピングする」ことです。なので、実際に顧客がサービスや製品を利用した行動をそのまま写すということではなく、ターゲットとするユーザーの理解を深め、想像し、その経緯を軌跡としてマッピングして(辿って)いくことになります。
本格的に「顧客体験※1※1顧客が製品やサービスと接触し興味を持った時点から購入して利用し続けるまでの「すべての企業との接点」と「顧客が企業に対して持つ評価」のことをさす。管理」に焦点が当てられるようになったのは、1990年代だと言われています。現在活用されている形式のカスタマージャーニーマップ(次の『カスタマージャーニーマップの作成の仕方』サンプル画像を参照)は、2005年前後に確立されたと言われています。意外と大昔から使われているようで実は新しいツールであるということが分かりますね。
さらに詳しく調べたところ、カスタマージャーニーマップ(CJM:customer journey map)の正確な語源は不明で、「ひとつの製品・サービスに関わる複数のタッチポイント※2※2Webサイト、アプリ、またはコミュニケーションを通じて、消費者がビジネスとやり取りできる方法のことをさす。 を視野に入れて分析を進める」という手本とした基本理念の原点は、元スカンジナビア航空CEOヤン・カールソンが提唱したMoT※3※3ユーザーが特定のブランドやプロダクト、サービスの質を判断・決定する瞬間を表すマーケティング用語のことをさす。(moments of truth:決定的瞬間)というコンセプトにあるそうです。
それでは、実際に私が作成したカスタマージャーニーマップを見ながら、伝えたい部分をピックアップし、細かく解説していきます。
※1 顧客が製品やサービスと接触し興味を持った時点から購入して利用し続けるまでの「すべての企業との接点」と「顧客が企業に対して持つ評価」のことをさす。
※2 Webサイト、アプリ、またはコミュニケーションを通じて、消費者がビジネスとやり取りできる方法のことをさす。
※3 ユーザーが特定のブランドやプロダクト、サービスの質を判断・決定する瞬間を表すマーケティング用語のことをさす。
カスタマージャーニーマップは、ワークショップでホワイトボードに付箋を貼りながら作成する方法もありますが、ここではプレゼン資料にも使えるカスタマージャーニーマップを作成方法を説明します。
テーマは『BOELサイトのTIPSページ』とし、これでカスタマージャーニーマップを作成していきましょう。作業する手順は以下の通りです。
ターゲットユーザーがいなければ作成することはできません。ビールを飲まない人に、ビールの宣伝をしても、何も「共感」を得られないのと一緒です。なので、テーマのペルソナ※4※4サービス・商品の典型的なユーザー像のこと。氏名・年齢・性別・住んでいる地域など、ライフスタイルからプライベートな部分まで細かく記載し、実在する人物のように仮説を立てる。そのことにより、戦略の方向性や具体的な施策を立てやすくなる。・ターゲットをお客さんの生活スタイル等に応じて絞り込みます。
まず、「TIPSのページを拝見する者は、どのような人物だろう?」と考え、細かく作成しています。
例)・ターゲット
22~25歳、女性、大学生・大学院生、アートディレクター志望
22〜28歳、男性、大学生・大学院生、エンジニア志望
23〜28歳、女性、会社員、企画
23〜35歳、男性、会社員、ディレクター
例)・ペルソナ
山下雪
24歳
女性
大学院生
都内で一人暮らし
デザイン会社で働きたくて、デザインに関係する大学院に行っている。
フリーランスでデザインを描いたりしている。
そろそろ就活のシーズンなので、デザインの求人サイトを見ることが、毎日の日課になっている。
色々なサイトを見て、デザインに関する豆知識を習得することが多い。
細かく作成することで、同じ人物像をイメージしながら話を進めることができて、ターゲットユーザーに対する認識のズレもなくなります。
※4 サービス・商品の典型的なユーザー像のこと。氏名・年齢・性別・住んでいる地域など、ライフスタイルからプライベートな部分まで細かく記載し、実在する人物のように仮説を立てる。そのことにより、戦略の方向性や具体的な施策を立てやすくなる。
カスタマージャーニーマップもビジネスで取り入れられる「5W1H」を用います。
When=ステージ・シーン
Where=シーン・チャンネル・タッチポイント・行動
How=チャンネル・タッチポイント・行動
What=行動
Who・Why=思考・感情
用いられる理由は、先程説明した『1. ペルソナ・ターゲットを書き出す』と同様に、何事も思考を視覚化させていくためです。
では、「22~25歳、女性、大学生・大学院生、アートディレクター志望」の行動を5W1Hで視覚化してみましょう。
私はこのように視覚化し、ユーザーの理解を深めていきます。
あなたは、どのように視覚化しましたか?そして、「どのように考え、どのようにすれば良いか」施策の進め方を理解することができたでしょうか。
カスタマージャーニーマップの作業の中で、この2. が私は一番難しい作業と思っています。まだまだターゲットユーザーの深堀ができていないと反省するばかりですが、1. と2. は、丹念に行うことで、より良いカスタマージャーニーマップを完成させる重要な分岐点になります。
私は前まで、とりあえずデザイン化しながら作業した方が効率が良いと勘違いしていましたが、実は、とても遅いということに気がつきました。 デザイン化しながら作業できる人もいると思いますが、私の場合、頭の中で整理ができていると思っていても、必ず10点ほど見落としていたり、付け足しを忘れてしまったりしていました。 その対策として「まず頭の中にあるものを全て書き出す」ということを意識するようにしました。作成していると追加で思い浮かんだりすると思いますが、些細なことでも箇条書きで紙に書きます。
手を動かすのは、パソコンのマウスではなく「まず鉛筆で簡単な設計図と、内容は箇条書きで頭の中にあるものを全て書き出すこと」を心掛けるようになってから、前と比べて、見落としや付け足しを忘れるだけでなく、迷う時間も少しずつなくなり、完成するスピードも早くなっていきました。
この作業は、カスタマージャーニーマップの作業だけでなく、他の作業のときにも活用しています。
1. 2. 3. ができたら、やっとパソコンと向き合います。
私は、このように「Adobe XD」のソフトを使って設計図を作成していますが、調べてみると、無料のテンプレートが配布されていたり、Excelで作ることも可能みたいです。様々なソフトを使って、自分の一番使いやすい方法で作成するといいと思います。
紙に書いた内容を全て埋め終わったら、一度全て見直します。 見直すときに以下のポイントを心掛けています。
デザイン面以外の内容を納得のいくまで、この作業を繰り返します。
内容は完成しているので、デザインを仕上げていきます。
デザインを仕上げるときは「プレゼン資料として、UIデザインができているか」を心掛けています。例えば、太文字にすることで見やすかったり、色を薄くすることで、チカチカせず見やすくなったりします。
ここでは、ターゲットユーザーのことではなく、「プレゼンを聞く・見る相手」を思ってデザインを仕上げていきます。
仕上げたら、カスタマージャーニーマップの完成です。
カスタマージャーニーマップの方法を説明していきましたが、「より良いカスタマージャーニーマップを作るにはどうすればいいのか」を私なりに説明しようと思います。
これらの5つの問いの答えの大半が「YES」であれば、良いカスタマージャーニーマップが作れるのではないかと『マッピングエクスペリエンスーカスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る』という本に記載されていました。 これは「ユーザーから共感を得るために必要な5つ」だと私も感じ、考え方に同意しています。作品を見て、ユーザーの「共感」等の感じた部分が多ければ多いほど、作成者はユーザーの理解ができているということになるからです。
上の5項目は意思決定のプロセスを左右する主な要因ではあるのですが、実際に体験した顧客の内容を写しているわけではないので、カスタマージャーニーマップは「作成者の想像」にはなってしまいます。 ただし、常に念頭に置く必要があるのは「この5つの要因が、その製品・サービスなどの特色として顧客が認知するものだという点」、つまり価値認識は「顧客の意識の中で行われるもの」であって、ある製品・サービスなどがそれを絶対的特性として備えているわけではないのです。
「作成者の想像」で作られていることは事実ではありますが、「顧客の視点からどう感じられているのか」を把握するために、ターゲット・ペルソナに「それは何故?」と自分の中で問いかけることが「カスタマージャーニーマップをより良くするためのカギ」となると考えています。 「それは何?」という問いであると、単語しか返ってこず、視野の広がりが狭まってしまうので、情報を広げるための「それは何故?」という問い方が必要になります。(『作成手順2. 5W1Hを考える』の画像を参照)
つまり、ターゲット・ペルソナに直接問いかけることはできないですが、問いかけることでターゲットユーザーのことを誰よりも理解する重要な糸口に繋がるのです。
カスタマージャーニーマップは、単なる「タッチポイントの一覧」ではなく、消費者のモチベーションや態度を掘り下げる、とても重要なツールだと感じていただけたでしょうか。「消費者に購入を決断させる要因は何か?」「顧客満足度を上げるための要因は何か?」等の、こういった疑問の答えを、分かりやすく示してくれるのです。
何か創作をすることになり「どう進めていけば良いのだろう」と困った場合は、色々とヒントが浮かび上がってくる「カスタマージャーニーマップ」を一度作成することをおすすめしたいです。そして、ユーザーを奥深くまで理解するという面でも「カスタマージャーニーマップ」は強い味方だと感じます。
この記事をきっかけとして「カスタマージャーニーマップ」の存在を知り、興味を持っていただけたらとても幸いです。
参考文献:James Kalbach(ジェームズ・カールバック)『マッピングエクスペリエンスーカスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る』武舎広幸訳,武舎るみ訳,O’REILLY
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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