組織においてリーダーシップとは目標達成に向けて組織を引っ張っていくためには欠かすことのできない概念です。リーダーシップを発揮する存在がいなくては、組織は存続できません。
「若手人材からもっとリーダーとなるような人材が出てくれたら……」
こう思う上司や経営陣の方たちがいる一方で、
「プロジェクトを主導する立場にはなったけど、私にはリーダーシップなんてないしな……」
こう思っている部下の方も少なくないのではないでしょうか。
後述しますが、リーダー向きな素質とマネージャー向きな素質というものはあるにせよ、リーダーシップは後天的に獲得することのできるスキルです。
というのも、人間というのはたとえ、その人物がリーダーのポジションになかったとしても、局所において「リーダーシップ」を発揮することが多々あるからです。
自分にはリーダーなんて向いていない!と思っていらっしゃる方にこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。
ストラテジック・デザイナー
T.M.
リーダーシップとは、指導力や統率力を表す概念で、組織を理想とする方向へ導く力を指します。経営学者のピーター・ドラッカーは、リーダーシップを以下のように定義しています。
「組織の使命を考え抜き、それを目にみえる形で明確に確立すること」
組織に与えられたミッションを考え、達成のための工程、ビジョンや目標を明文化し、それをメンバー間に浸透させることを言っているのでしょう。さらに具体的にするならば、リーダーシップとは下記のような課題や問題を解決する能力や工夫を指すのだと筆者は考えます。
・目標設定と達成へ向けた引率力
・チームメンバーの能力の発揮・向上
・トラブル対処
・今の時代にこそ求められる能力 ファシリテーター力
組織が理想とする方向へ向かうにも、まずは明確なビジョンや目標が見えていないといけません。
組織にはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をしっかり持つことが不可欠ですが、ビジョンの実現から逆算し定めた中・長期的目標や短期目標の設定に向けてチームや組織をひっぱっていくには引率力がなくてはなりません。リーダーにまず求められる力でしょう。
組織やチームのメンバーが納得できている状態にまとめられると組織はさらに成長する可能性を拡げられます。
これはチームビルディングの記事でも紹介しましたが、いくらリーダーが孤軍奮闘しても、他のメンバーを巻き込めなければ、組織は強くなれません。
「早く行きたければ一人で行け。遠くへ行きたければみんなで行け」というアフリカの諺があるのだそうですが、「なぜチームを組むのか?」という根本的な目的もここにあるはずなのです。
それなのに、「言われたことをやれ!」とメンバーに指示をし行動を促すだけでは、おそらく人は動いてくれないでしょう。
なぜなら、メンバー一人ひとりもそれぞれ人間ですし、感情というものがあるからです。
人は正しい理屈ではなく、感情で動く生き物です。
マーケティング等ではよく知られたことですが、対外的にはそれができても社内ではそれができていない組織というものは意外と多くあります。
ではどうしたらいいのか。
組織やチームのメンバーを説得し、メンバーが納得した状態をつくること。
なぜこれをやるのか?という「意味」の浸透です。
人は「意味」がわからないことを自発的に、ましてや主体的にやろうとはしません。というのも、意味がわからないことをやり続けるのは、苦しいだけですよね。
どうしたらメンバーがやる気になるか?につながる課題ですが、結論からいえば、
メンバーに希望を与え、時に難題を与えながらも、学びを与え、その都度、成長をほめる。
この役目を担えるのがリーダーシップを取れる人です。
筆者がこの考えに至ったのは、かの有名な山本五十六の言葉に出会ったことにあります。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
各メンバーが自分の能力やスキルを発揮したい!もっと向上したい!と思えるような接し方のヒントはここにあるのではないでしょうか。
組織やチームを動かしていると、事前にどんなに予防線を張っていても、トラブルは避けて通れません。特に多いのが人間関係のトラブルです。トラブルが起こった際に、どういう対処の仕方をするのか?そこにリーダーの素質が見えますし、問題解決能力が試されます。
後ほど具体的事例とともに詳述しますが、危機的状況においてこそリーダーシップのスイッチが入ることもここで述べておきます。
これまでリーダーシップとは、「強い言葉や振る舞いで人々を説得して引っ張る存在」というイメージがありました。
しかし、冒頭でも触れた通り、多様な価値観が尊重され、バックグラウンドが異なる者同士が一つの組織で協働するのがあたりまえになりつつある現代においては、旧来のリーダーシップの取り方ではうまくチームがまとまらないケースが増えています。
それに伴い、一人でぐいぐい引っ張る強いリーダー像とは異なり、チームや組織のメンバーと協調する調整型のリーダー像が支持されるようになっています。
メンバーそれぞれがチームや組織が叶えたい理想を「自分事」として納得して参加してくれるような場をつくれたり、マイノリティの意見にも耳を傾け、気持ちに寄り添うことのできるリーダーです。
では、調整型のリーダーに求められる能力とは何か?
筆者はこれからの時代のリーダーシップにはコミュニケーション能力に加えて、ファシリテーター力が重要だと考えています。
ファシリテーター力とは何か?
本記事をお読みのあなたの会社でも会議やミーティングをする機会は少なくないでしょう。その際に、会議の進行をしたり意見を取りまとめる役割を担うのが、ファシリテーターです。
ファシリテーターというと、テレビの討論番組における「司会進行役」が浮かぶかもしれませんが、チームの意見の取りまとめ役というイメージのほうが近いかもしれません。
ファシリテーター力とは、時に場を作り、仕切る、各意見を傾聴し、本音を引き出し、意見を取りまとめ、組織のコミュニケーションの円滑化や活性化に貢献する力を指すものであると筆者は理解しています。
ファシリテーターについて、よくある誤解は、「人が集まる場所さえつくればいい」という考えです。
人が集まれば勝手にコミュニケーションが創出されるのか?といえば、そうではありませんよね。
本記事をお読みのあなたの職場にも実際起こっていることかもしれません。
特に働き方が多様化し、会議もオンラインで行われる機会が増えている昨今においては、ファシリテーター力がないとリーダーとしての役割を全うできない!なんていうケースも少なくないのではないかと想像します。
リーダーシップの重要性が挙げられることは多々ありますが、先にご紹介したピーター・ドラッカーの言葉にもあるように、「組織の使命を考え抜く人」というのは、リーダーの役割だと思っている人が大半なのではないでしょうか。
もちろん、リーダーには不可欠なスキルです。しかし、果たしてリーダーシップはリーダーだけのものなのでしょうか?
結論から述べると、組織のメンバー全員にとって重要だというのが筆者の考えです。
特に中小企業の場合は、大企業とは異なりリソースが限られています。一人の人間が大企業で言うところの部署や役割を兼任することも珍しくありません。
そういった場合、誰かの指示を待っているような受け身な姿勢では組織は動いていけません。各メンバーが「自分事」として主体的に組織の課題や問題と向き合う姿勢、つまりリーダーシップを発揮することで少数精鋭の体制を築いていくことができるのです。
組織やチームの各メンバーがリーダーシップを発揮することで、得られるメリットは山ほどあります。ここでは代表的なものを5つ紹介します。各メンバーがリーダーシップを発揮する体制を築くことで得られるメリットを感じてもらえるのではないでしょうか。
・組織の柔軟性と変化への対応力が向上する
・経営者や上司の負担が軽減する
・組織のモチベーションが高まり、生産性が向上
・新人や若手の育成、組織の成長につながる
・主体的に動く文化が社外からの「信頼」に
ところで、リーダーとマネージャーの違いについて、あなたは説明できますか?
ここで「リーダー」と「マネージャー」の役割について触れておきます。両者とも意味がよく混同されることがあるからです。しかし、両者には根本的な違いがあります。
かくいう筆者自身が以前、ある経営者から「君は、リーダーとマネージャーの違いがわかるか?」と聞かれて、答えに窮した経験があります。
たとえば、以下のようなシチュエーションの場合を想像してみてください。
これまでの事業での業績がまずまずの中小企業があったとします。
仮にこの企業をA社とします。
A社では、その業界ではそこそこ名の知れた会社ですが、ある社員から全くの異業種への新規事業が発案され、社長に提案されました。
もちろん、市場分析もされたわけですが、新しい分野でデータが少なく勝機としては未知数です。仮に失敗した場合の損失も少なくないことがわかりました。
そこで、社内で新規事業への参入に関する意見を募りました。
集計結果は以下の通り。
賛成:20%
反対:80%
この結果を受けて、あなたが決済者(社長)なら新規事業をやりますか?それともやりませんか?
結論を言うと、リーダータイプはこの結果を受けて20%の方へ舵を切れる人です。逆にマネージャータイプは80%を支持します。
つまり、リーダーはたとえ反対意見が多数であっても「決断」ができる人です。マネージャーは意見を総意として「まとめる」人だということです。
両者ともリーダーシップを必要としますが、そもそもの役割が異なりますし、両者の間に優劣があるわけではありません。まったくの別者だということです。
では、マネージャータイプがリーダータイプになれないのか?というと、必ずしもそうではありません。ただし、リーダーになるために1から学び、訓練しなければならないということになります。
リーダーとマネージャーの違いについてさらっとご紹介しましたが、
話をリーダーシップに戻します。
リーダーやマネージャーは言うに及ばず、組織の全メンバーがリーダーシップを身につけることで、チームや組織はまとまり、効率よく成果につなげていきやすい体制が整うのです。
そこで、次項ではリーダーシップを語る上で欠かせない理論について取り上げます。
リーダーシップにおいて必要な能力・行動について説明した理論も存在しています。PM理論が代表的ですので、以下にご紹介しておきます。
企業や個人で掲げた目標達成のために必要な行動を取れること。または達成のために適切な指示を出し、業務効率の向上に貢献する行動や仕組み改善のための行動が取れること。
組織やチームといった集団を維持するために必要な行動が取れること。メンバー間の良好な関係性を構築・維持するために間を取り持ったり、コミュニケーションを創出することも含まれる。
PM理論を踏まえて、リーダーシップを発揮できる人の特徴を挙げます。
リーダーシップについて、どういった能力やスキルがあればいいのか?というお話をしてきましたが、筆者はリーダーシップというのは「育む」ことができる能力だと考えています。
ただ、リーダーシップに関する書籍や学習、知識を得ることも大事ですが、結局は行動・実践しなければ身につかないというのが筆者の考えです。
逆に「リーダーシップって何?」という方でも、日頃の行動を通してリーダーシップを立派に実践されている方に筆者はたくさん出会ってきました。
リーダーシップはスイッチを入れれば、誰でも取ることができる!と筆者が主張する理由もここにあります。
これまで、PM理論を代表としたリーダーシップに関する話も知らないよりは、知っていたほうがいいのかもしれませんが、知っている、理解しているからといって「できること」にはなりません。
これはマインドセットにも通じる話ですが、知識を得ることよりも行動することが大事なのです。リーダーシップであれば、「リーダーシップを発揮する体験」を積むことこそが最大の学習だと筆者は考えます。
ここからは、実際にリーダーシップのスイッチを入れるにはどうしたらいいのか?の答えとなる具体例とともにご紹介します。
これを読めば、リーダーシップが何か特別な才能のある人にしかないものではなく、スイッチを入れれば、誰にでも身につけられることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
震災や自然災害など、危機的状況に瀕した場合にこそ、「リーダーシップ」が求められるケースは多々あります。これは、経済危機や会社の経営においても同様です。
リーダーシップを発揮した本人は、「無我夢中で……ただやらなきゃ!と思ってやっただけです」と答える方が多いことにも気づかされました。
NHKのプロジェクトXという番組を観ている時でした。
映像では東日本大震災の際に、一人の工事現場作業員が瓦礫の山を自らのブルドーザーでかき分けて道をつくっていました。瓦礫の中に人がいるかもしれない状況。慎重に慎重に、銃器を動かしていくその姿。
その他にも自らの家族の安否もわからない状況下で、まず目の前の人を助けなきゃ!と動く人たちが映し出されていました。
震災をはじめとした特別災害時には、自分の身も顧みずに誰かを助けようと動いた「ヒーロー」たちがたくさんいたことでしょう。
「救助」や「復興」という目的に向かって、数多くのリーダーシップが発揮された結果、多くの命が救い出され、また多くの希望が失われなかったのだと筆者は感じました。
筆者がリーダーシップを感じたエピソードをもう一つご紹介します。
大阪に住む祖母の家に遊びに行った際の出来事です。
祖母とお昼を食べようと商店街の定食屋さんに行った際、お昼時だからか店の前には十数人並んでいました。
「あんたは、こっち。あんたは店内?」と列を捌いている様子。
筆者の私はてっきり列が長くなったので、店員さんが列を整えているのだと思いました。
すると、それは店員ではなく豹柄に身を包んだ”いかにも大阪”なオバちゃん。
「あんた、ここのおばあちゃんに席座らせてやりーな」
とすっかり場をとり仕切っている。
その強烈なキャラと雰囲気に私は”呑まれて”いました。
気がつくと私の前で祖母と世間話をしている。
店に入った後で「おばあちゃんの知っている人?」と聞くと、
おばあちゃんは一言。「え?知らん人」。
圧倒的なコミュ力を見せつけられた瞬間でした。
関西、それも大阪の下町にいると、よくこういったオバちゃんに出会います。
関東の人間からすると”お節介”に思ったりもするのですが、
今振り返ると、あのオバちゃんはコミュ力は去ることながら、「お節介を焼きつつ」、実は「ものすごいリーダーシップ」を発揮してたんだなと筆者は感心しています。
これを読むあなたももしかしたら経験のあることかもしれません。
大阪に行かれる機会のある方は、ぜひ注意して町の人たちを観察してみてください。
私は個人的に、大阪という街はリーダーシップにあふれていると感じています。
学びも多いのでぜひ。
前項でご紹介したエピソードを読んだ方は、「リーダーシップって特別な能力というよりは、勇気の問題なんじゃない?」と感じたかもしれません。結局のところ、リーダーシップを発揮するトリガーとなるのは、「勇気」だと筆者自身は考えています。
組織やチーム内におけるリーダー的振る舞いは色々と挙げることはできますが、勇気がなければできないことです。
最後にリーダーシップは誰でもスイッチさえ入れれば取れるものだ!ということとともに、ロシアのことわざをご紹介して筆を置きます。
「賢い人間はたくさんいるが、勇気のある人間は少ない」
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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