従業員エンゲージメントの向上を目指してさまざまな施策をしながらも、以下のような課題を依然として抱えていませんか?
「せっかく育てた人材が定着せずに辞めてしまう」
「社員が受け身で指示待ちの姿勢。積極的にアイディアを出してくれない」
「会社のビジョンや方針が社員に伝わっていないと感じる」
ギャラップ社の2024年度の調査(※参考1)によると日本の従業員エンゲージメントは調査国139カ国中132位で世界最低水準。従業員エンゲージメントが低いことによる機会費用の損失は、86兆円にも上ります。
そこで、「これまで従業員エンゲージメントを高めようとさまざまな施策をしたものの、なかなかうまくいっていない」という課題に有効な施策が、インナーブランディングです。
本記事では従業員エンゲージメントを高める視点でも有益なインナーブランディングの進め方や施策についてご紹介します。
ストラテジック・デザイナー
T.M.
従業員エンゲージメントの向上にも貢献するインナーブランディングですが、実施状況に関して興味深いデータがあります。
タナベコンサルティングが2024年に実施したアンケート(※参考2)によると、ブランディング戦略を策定していない企業は全体の約53.3%と、半数以上の企業がブランディング戦略をしていないという結果になりました。
つまり、インナーブランディングを含むブランディング戦略を策定していない企業がまだまだあるということです。しかも、このデータはあくまで策定している企業ですので、実際に実施してブランディングが機能している企業は実際のところはさらに少ないことが考えられます。
ということは、本記事を読んでインナーブランディングの進め方や施策を行うことで、従業員エンゲージメントを高めるための施策としてだけではなく、競合他社がまだ注目していない組織改善策を実施できてしまうのです。
インナーブランディングとは、社員の意識や行動規範と企業ブランドを統一して、MVVを社内に浸透させる一連の工程を指します。
MVVとはミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)の意味で、「会社がどこへ向かい、何を大切にするのか?」といったことを示す言葉です。
近年ではMVVに目的を意味するパーパス(Purpose)を加え、PMVVとされることも増えています。
MVVやPMVVを策定することで、従業員一人ひとりが会社のブランドや理念に則った自主的な行動を取れるようになります。
わかりやすい例を挙げましょう。
もし、会社が「安全第一主義」を掲げているにも関わらず、従業員が「売上至上主義」の考えで安全を軽視した業務の取り組み方をしていたらどうでしょうか?
ステークホルダーにとっても、お客様にとっても一貫性がない印象を持たれてしまいますよね。
個人単位でいえば、「言ってることとやっていることが違っちゃってるんじゃないの?」といった現行不一致な状態を避けるためにも、MVVやPMVVが大事です。
MVVやPMVVを設定する際の注意点に関しては後述しますので、ぜひ最後まで読んでください。
インナーブランディングとともに、アウターブランディングという言葉も使われます。
両者の違いはその対象と目的にあります。
インナーブランディングが組織内や社員を主に対象にした施策であるのに対して、アウターブランディングは、顧客や市場、取引先を対象としています。
アウターブランディングは、企業や商品のブランド価値を社外に伝え、認知度や信頼を向上させることに主眼を置いていることから、手法としても広告やPR活動、製品・サービスのデザイン、顧客とのコミュニケーションデザイン、ブランドロイヤルティの向上などが挙げられます。
多くの人がブランディングと聞いて、イメージするのは主にアウターブランディングです。
インナーブランディングとは何か?概要をつかんでいただいたところで、インナーブランディングを取り入れることで得られる具体的なメリットと効果についてご紹介します。
インナーブランディングを取り入れる最大のメリットとして、従業員エンゲージメントの向上が挙げられます。企業理念や将来に向けたビジョンが明確になることで、従業員一人ひとりが自分の仕事が会社の未来に貢献できていることを実感できますし、働く理由を会社が成し遂げたいことと結びつけて考えるようになるからです。
つまり、従業員が「自分事」として自分の仕事を捉えられるようになります。すると、仕事への向き合い方が変わり、自分は貢献しているんだ!と思えることから「働きがい」を感じ、従業員の定着につながるのです。
インナーブランディングを採用することで得られるメリットはこれだけではありません。具体的な効果について次に紹介します。
・目指す方向や価値の一貫性
インナーブランディングを採用し、従業員が自社のPMVVを理解し、それに沿った行動を取ることで、顧客への対応やサービス、製品を含めて一貫性が生まれます。また、従業員が価値観を共有することで意思決定や行動が統一、迅速化し、組織全体の一体感も高まります。
・アウターブランディングとの相乗効果
前項でアウターブランディングとインナーブランディングの違いについて紹介しましたが、両者には密接な関係性があります。つい対外的なブランディング(アウターブランディング)戦略に注目しがちですが、実は内から外へブランディングする方が、長期的な視点では効果的です。従業員の仕事への姿勢や態度がサービスの質そのものに生きるように、インナーブランディングは、仕事の進め方や無駄を省け、「働きやすさ」も改善されることから、結果的には生産性の向上。企業価値が上がることで、マーケティングや販売促進にかけるコストを最小限に抑えることができます。
・採用人材とのマッチング
採用ブランディングにも通じますが、会社の目指す方向や価値観に共感する求職者が集まることで、採用後のミスマッチを減らすことにつながります。求職者が「働きたい企業」として認知することで、会社のブランド価値を理解した人が集まる組織となり、人材教育にかけるコストの削減!といった効果も期待できます。
・従業員の帰属意識の向上
インナーブランディングの施策をすることで、自社への愛着や共感度合いが高まります。自社が目指す未来を把握することで、自分の仕事がどう貢献するのか?を、従業員が主体的に考えることで、結果より大きな成果や「働きがい」につながります。
・顧客満足度の向上
インナーブランディングにより従業員の自社ブランドへの理解が深まり、ブランド価値をステークホルダーに正しく伝わると、顧客対応の質が向上します。従業員一人ひとりが自分たちの役割と貢献を把握することによって、ホスピタリティが強化されるのです。その結果として、顧客満足度の向上やリピーター、ファンの増加につながります。
従業員エンゲージメントとは、従業員が会社の方向性に共感し、貢献したいという意欲のことです。よく混同されるのが、従業員のモチベーションです。
従業員エンゲージメントとは、従業員が会社の方向性に共感し、「ぜひ貢献したい!」と思う意欲のことで、従業員と会社・企業との関係性に主眼が置かれているのに対し、モチベーションとは、各従業員の心理状態を指します。
従業員エンゲージメントを高める上で欠かせないのが、企業理念やビジョンの明確化と共有です。従業員が会社との関係性を形づくる上で、企業の考えや実現したい未来に対する共感はとても大きな役割を担います。
従業員の帰属意識を高めたいのであれば、従業員の人生と会社の未来とのリンクは重要事項です。従業員と会社が共通の目標を持ち、価値観を共有し合う関係性を築くことを支援するのが、インナーブランディングです。したがって、これからご紹介するインナーブランディングに取り組むことで、従業員エンゲージメントの向上まで図れるのです。
インナーブランディングを始める際には、まず自社の現状を把握しましょう。具体的には以下の3点を改めて見直してみましょう。
現状にどういった課題があるのか?を明確にし、その内容を社全体で共有することが重要です。
インナーブランディングを進めるにあたり、PMVV(パーパス、ミッション、ビジョン、バリュー)の策定が前提として必要です。
特にミッションやバリューが曖昧な状態では、チームや組織が統率が取れずに弱ってしまいます。1.の項でも紹介した言行不一致な状態を招きかねません。
会社が目指す方向に進もうとしても、社員がそれとは違う方向に進む行動を取っていては、組織としての一体感はもとより瓦解しかねません。
会社が市場という大海原に漕ぐ一艘の船に例えるならば、PMVV、MVVは会社にとって道標となる「北極星」にあたる部分です。
指標とすべきコンパスを持たずに大航海に出ることが、どれだけ危険な行為か想像いただけるはずです。
インナーブランディングの内容を言語化して、PMVVに落とし込んだ後に、浸透活動を行います。
浸透活動の具体的な内容については3.の項で紹介しますが、浸透活動の目的は、企業理念の背景や創業者の想いの共有、会社が実現したい未来の姿を従業員に共感してもらうための仕組みやきっかけを構築することです。
施策が決定したら、インナーブランディングを社内に浸透させる協力者、布教者のような存在であるアンバサダーを選定するのも一つの手です。まずはトップを始め経営陣、マネージャー陣から現場の人材に浸透させていく手順を踏むならば、そのブリッジ役になるのもアンバサダーの務めです。
従業員の日常にインナーブランディングの施策が浸透するように、人事評価制度と紐付けたり、企業文化と融合させていくことが大切になります。
インナーブランディングを進めるにあたり、どの程度の成果や効果が得られているか定期的に確認する工程は外せません。従業員へのアンケート調査や、1on1を通じた面談を通じて効果の有無をチェックすることが重要となります。分析方法としては他にも「eNPS」や「組織サーベイ」という方法があります。測定値として数値化したい場合に役立つでしょう。
インナーブランディングの効果を測定する際には組織サーベイを用いた調査方法もあります。組織サーベイとは、施策選定の際に用いられる企業調査のことで、従業員の意識や職場環境に関する課題を把握したい際に役立つ測定方法です。従業員エンゲージメントや満足度、働きがいや社内コミュニケーションの活性具合などを測る指標として用いられています。
組織サーベイの具体的な方法は主に以下の4つのステップで実施されます。
アンケートを実施する際には、回答率を高めるため、実施目的を伝え、匿名性を担保することに注意してください。回答率が50%以下の場合などはデータの信頼性が低くなる可能性があるので、アンケートに協力してもらえるような試みをすることも必要です。
収集したデータを分析する際に、まず意識したいのが、定量データだけでなく定性データについても活用することです。先ほど紹介したeNPSのようにスコアだけでなく、自由記述欄を設けて、従業員が自社に対して抱いている想いや考えなどを開示してもらうことで新たな気づきが得られます。
他の注意点としては、「サーベイ疲れ」に代表されるように頻繁に調査をしすぎると従業員にとっては煩わしいタスクとなってしまいがちです。従業員が「本音」ではなく、忖度のように「求められている回答」をする可能性も踏まえなければなりません。特に分析する側の人間が自分の考えに合う情報ばかりを取り上げたり、反対の意見を無視するような確証バイアスには注意しなけらばならないでしょう。
これまでインナーブランディングの進め方についてご紹介しましたが、ここでインナーブランディングを進める際の注意点を5つお伝えしておきます。
せっかくの施策がつまづいてしまうことのないよう、ぜひ事前に押さえておきましょう。
・経営層がコミットする
インナーブランディングは、経営層が率先して企業理念やPMVVを伝えることなしには実現しません。従業員の信頼と共感を得る意味でも、経営層のコミットが不可欠です。
・中長期的な視点を持つ
インナーブランディングは短期間で効果が現れるものではないのが特徴です。長期的な戦略を立てて段階的に浸透させていくことで、末長く会社のブランド価値を維持・拡大していけます。
・従業員の価値観を大事にしつつ共感を得る
従業員一人ひとりにも各自の価値観や意見がありますので、企業理念やPMVVを押し付けるようなことはしないようにしましょう。「上から強制された」といった印象を従業員に持たれることで、「何を言っても無駄だ」という望ましくない社内文化の情勢につながりかねません。
・ブランドのメッセージはシンプルにする
ブランドのメッセージ、PMVVはできるだけシンプルで伝わりやすい文言にしましょう。抽象的過ぎると社員はおろか、経営陣でさえも「?」といった状態になりかねません。誰にでも伝わりやすい平易な言葉を意識して明文化しましょう。
・継続的に取り組む(PDCAをしっかり回す)
インナーブランディングを進める上で、「完成形」はありません。常に「途上」である意識を持ってPDCAを回し、中長期的視点で取り組む必要があります。目先の短期的な成果ばかり見ていると、すぐに失敗してしまうこともあるので注意が必要です。
何よりも従業員が自社のブランドの価値を理解し、実践できる環境をつくることこそがインナーブランディングの成功可否とブランド力向上を大きく左右することになります。
インナーブランディングの進め方と注意点等について理解していただいたところで、具体的な施策例について5つの施策を紹介します。
インナーブランディングを進める際に、社内報や自社内におけるメディア(Webサイトなど)を使用する方法があります。新聞や雑誌などの冊子を配布・掲示することが主流でしたが、最近ではWebサイトをはじめ、アプリ、動画でのメッセージなどで発信する企業もあります。
クレドとは企業理念や価値観に基づき、従業員としての行動指針にあたります。クレドをを設定することのメリットは、各従業員が日々の勤務において、何を重要視すべきか?がはっきりすることです。従業員の判断基準が統一されることで、全従業員がブランドコンセプトに沿った行動が取れ、外部ステークホルダーに対しても適切なアプローチが可能となります。
また人事評価の基準とするなど企業が考える価値の共有・浸透にも役に立ちますので、ぜひ活用したい施策です。
ちなみにBOELでもクレドを活用していますので、どういったことを明文化すればいいのかわからない方は、ぜひ参考にしてください。
企業理念やPMVVを深く理解し、行動に落とし込むために実践形式のワークショップやOJTをはじめとした研修制度を設ける企業もあります。従業員のスキルの向上だけでなく、「自分事」にする意識の情勢にも一役買うことでしょう。
ワークショップやOJTというと、「業務研修」といった色合いが強くなりますが、懇親会やスポーツ大会、企業のCSR※1※1CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が社会や環境に対して果たすべき責任、つまり「企業の社会的責任」を意味します。に関連した地域環境ボランティア活動への参加なども含まれます。企業が利益追求だけでなく、社会に対してどのような態度でいるのか?といったことを身をもって体験することでより自社を身近に感じられるかもしれません。チームワークや社内コミュニケーションの活性化にもつながります。また、CSR活動をすることで従業員エンゲージメントやモチベーションの向上も見込めます。
経営者や経営陣が定期的に、企業の方向性や戦略、従業員とともに成し遂げたい目標などをメッセージとして伝える活動になります。最近では、経営者自らがSNS等のメディアを通じた発信活動を行うケースも珍しくなくなりました。普段関わりの少ない従業員たちが、トップメッセージに直接触れることによって、これまで遠い存在に思えていた経営者の想いであるとか、企業が実現したい未来像をより身近に感じられることが大きなメリットです。
非対面による実施も増えていますが、もし可能であるならば経営陣と従業員が対面でセッションを行える環境や機会を設けると尚いいでしょう。経営者や経営陣の思い描くビジョンや方向性を同じ場所で知ることで、従業員エンゲージメントも高まります。経営者の想いに直接触れることで組織の結束力も上がります。
※1 CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が社会や環境に対して果たすべき責任、つまり「企業の社会的責任」を意味します。
いかがでしたでしょうか?
従業員エンゲージメントの向上に課題を感じている方は、先に紹介したインナーブランディングの施策をぜひ試してください。
本記事では、インナーブランディングを進めることによって従業員エンゲージメントを向上できるだけでなく、他にもさまざまな組織改善の効果が得られるという話から、インナーブランディングの具体的な進め方や施策内容についてもご紹介しました。
ぜひ、インナーブランディングの施策を実行に移して、「この会社に貢献したい!一緒に未来をつくっていきたい!」と共感してくれる従業員を一人でも多く増やしていきましょう!従業員は待っているかもしれません。
従業員エンゲージメント向上の課題をまるっと解決してしまうインナーブランディングに取り組んでみてはいかがでしょうか?
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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