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  • Vol.156
  • BRANDING
  • 2024.12.27

応援される存在になるには? ファンづくりにブランディングが果たす役割

「推し活」という言葉がめずらしくなくなった昨今。その市場規模は今や8000億円近くあるというデータ※1※1推し活の市場規模 矢野経済研究所の『「オタク」市場に関する調査』によると、2021年に7000億円近くだったオタク市場が、2022年には8000億円近くに拡大。それ以後も拡大を続けている。 もあります。

「応援する・応援される」という関係は、「推し活」市場にとどまらず、クラウドファンディングをはじめ、多分野においてこれまで以上の価値を生み出しています。

またサプライヤー側も「応援してもらえる組織づくりが売上に大きく貢献する」事実に注目しはじめており、「ファンづくり」への関心が年々高まっています。「ファンビジネス」や「ファンマーケティング」という言葉が散見されるようになったのも一事例でしょう。

今回は、BOELでプランニングを担当する筆者が、「応援される=ファンがつく存在」になるにはどういった「姿勢」が大切なのか?またブランディングが「ファンづくり」に果たす役割についてもご紹介します。

本記事を読むことで、リピーターやコアな顧客を創出する「ヒント」にしていただければ幸いです。

※1 推し活の市場規模 矢野経済研究所の『「オタク」市場に関する調査』によると、2021年に7000億円近くだったオタク市場が、2022年には8000億円近くに拡大。それ以後も拡大を続けている。

PLANNER

T.M.

1 「応援かち時代」の到来

1 「応援かち時代」の到来

時代の変化の速さ、特にここ2、3年の時代の変化には目をみはるものがあります。
SNSが普及したかと思えば、ChatGPTをはじめとするAI技術の浸透・発展にはめざましいものがあります。

こうした時代の流れはビジネス業界においても無視できないファクターです。冒頭にもご紹介した「推し活」市場もさることながら、インフルエンサーによるSNSやYouTubeでの紹介をきっかけに商品やサービスを利用することは、若年層を中心としてもはや「一般的」でさえあります。

では、その先にはどんな未来が待っているのでしょうか。
筆者なりに予想する近未来があります。

1.「機能」よりも「意味」がより高く評価される時代に

2.商品やサービスを広告媒体を通じて「売り込む時代」から「応援かち時代」が本格的に到来


1.「機能」は当たり前。それよりも「意味」がより高く評価される時代に

わたしたちが暮らす現代はモノやサービスがあふれる時代です。情報においては「過多」とさえいわれています。モノやサービス、情報が氾濫する中で、「良し悪し」はおろか、「真偽」さえ不確かな時代を生きているわたしたち。その時代性にフィットした一つのビジネス形態がインフルエンサービジネスだと筆者は捉えています。

「この人が言うことなら、信じられそう」と思い、商品紹介リンクをポチッ。

こうして商品を買われた経験をお持ちの人も少なくないのではないでしょうか。

筆者が注目したのが、「意味」がもたらす価値です。

「意味」がもたらす価値とは「信用」とも考えられるかもしれませんが、その内実はさまざまな要素が絡み合っています。

商品やサービスのブランド価値であったり、顧客が抱くイメージや感情、愛着などといった情緒的価値も含まれます。「誰が(サプライヤー)」の部分も重要な要素になるでしょう。

「機能」とは「役に立つか?必要かどうか?」で判断されるスペックの部分です。「機能」で差別化を図る商品は、よほど革新的で独創的な機能を搭載しない限りは市場の価格競争にのみ込まれやすいのです。

なぜかといえば、「機能」だけではすぐに他社が同様の商品を模倣して、より安価に販売できてしまう可能性が高いからです。それだけ技術力では差別化しづらくなっているのが今の時代です。

過去に機能的優位性を重視する余りに価格競争にのまれて世界市場で沈んでいった日本企業は少なくありません。
スマホや電子機器を例にするならば、「機能」を備えているのは当たり前。では何が商品購入の決め手になっているのか? 

そこで登場するのが、「意味」です。

アップル製品がいい例ですよね。「機能」でいえば、同様か、それ以上の製品は他のブランドにもあります。それでもアップル製品のスマホを買ってしまう。そこにはアップル製品でなきゃいけない「意味」があるのです。

「意味」を売っているのはアップル製品に限らず、皆さんもよく知る高級ブランド品や高級車、不動産に至るまでさまざまです。

なぜ、わざわざ銀座の一等地にお店を構えるの? 
なぜ、時速200キロ以上で走れる専用自動車道など日本にはないのに、支持されるの?

本記事をお読みのあなたもこうした疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。

すべては「意味づくり」のためなのです。

上記の例であれば、

「銀座の一等地にあるラグジュアリーな空間でお買い物をするという体験」
「多くの人が持てるわけではないスポーツカーを乗っているという優越感」

ということが、消費者にとっての「買う意味」の一例かもしれません。

ちなみに「機能」よりも「意味」を売る商品が価格競争にのみ込まれることはありません。
なぜなら、その「意味」はその商品、果てはサプライヤーにしかつくり出せないものだからです。

これまでの価格競争から一歩も二歩も抜け出したいと考える企業は、「意味」づくりに照準を当てるのは必然とも言えるかもしれません。

また、「機能」だけでは満たされなくなった消費者からすれば、「誰」からどういった「意味」を買うのか?をこれまで以上に重要視するのではないでしょうか。

筆者が「意味」消費がこれから本格的になると予想する理由はここにあります。
後述しますが、ブランディングではこうした「意味」の創造や定着を目指した施策を行います。

2.商品やサービスを広告媒体を通じて「売り込む時代」から「応援かち時代」が本格的に到来

そして、2.について。1.で触れた「意味」消費の代表格となるのが、冒頭でもご紹介した「推し活」をはじめとした「応援する・応援される」ビジネスです。

「応援かち時代」というのは、「応援する・応援される価値」と「応援される者が市場で勝つ」をかけ合わせた筆者の造語です。

マス(大衆)における消費者のニーズにアプローチした従来のマーケティング手法ではなく、顧客ロイヤリティを高め、既存顧客のインサイト(本音)をより重要視するビジネスが台頭すると筆者は考えています。

新規顧客の獲得よりも既存の顧客維持に焦点を当てることは、経営的には「内向き」に思われるかもしれません。

しかし、実は既存顧客の維持(もしくは、よりコアな顧客にする施策)は新規顧客にアプローチするよりもかかるコストが少なくて済む場合が多いのです。

「1:5の法則」でいわれるように、新規顧客の獲得にかかるコストは既存顧客維持にかかるコストの5倍だという見方があります※2※21:5の法則 アメリカのコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのフェローであるフレデリック・F・ライクが提唱。新規のお客様を獲得するには、既存のお客様の5倍のコストがかかる法則。新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず利益率が低いので、新規顧客の獲得以上に、既存顧客の維持が重要であるという考え方。

つまり、新規顧客の獲得のために宣伝広告等に費用をかけるよりも、
既存の顧客にフォーカスして、より彼らを「喜ばせる」ほうが利益に結びつきやすい!ということです。

既存顧客の中でも特にコアな顧客を本記事における「ファン」と定義するならば、
実に売上の8割を顧客層の2割に当たる「ファン」がもたらしているという考えもあるくらいです※3※3パレートの法則(2:8の法則) イギリスの経済学者ヴィルフレド・パレートによって提唱。顧客全体の2割である優良顧客が売上の8割をあげているという法則のこと。すべての顧客を平等に扱うのではなく、2割の優良顧客を差別化することで8割の売上が維持でき、高い費用対効果を追求できるとするもの。

「応援される」がもたらす利益がいかに大きいかがわかっていただけるのではないでしょうか。

※2 1:5の法則 アメリカのコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのフェローであるフレデリック・F・ライクが提唱。新規のお客様を獲得するには、既存のお客様の5倍のコストがかかる法則。新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず利益率が低いので、新規顧客の獲得以上に、既存顧客の維持が重要であるという考え方。

※3 パレートの法則(2:8の法則) イギリスの経済学者ヴィルフレド・パレートによって提唱。顧客全体の2割である優良顧客が売上の8割をあげているという法則のこと。すべての顧客を平等に扱うのではなく、2割の優良顧客を差別化することで8割の売上が維持でき、高い費用対効果を追求できるとするもの。

2 ファンづくりの素は「感謝」の先にある

2 ファンづくりの素は「感謝」の先にある

「応援される」ことがもたらす価値についてご紹介した上で、どうすれば「応援してもらえる=ファンがつく」状態になれるのか?考えていきましょう。

本記事を読むあなたも一緒に考えていただきたいのですが、
たとえば、応援される人とそうでない人とでは何が違うと思いますか。

  • 礼儀正しい
  • 面白い
  • カッコいい
  • 優しい


果たして上記のような要素だけで、「応援してもらえる」でしょうか。

もちろん、「肯定的な印象」は抱いてもらえるかもしれませんよね。
しかし、それだけではよほど強烈な印象の持ち主でない限りは、「ファンになってもらう」には不十分なのではないでしょうか。

結論から述べると、
「ファンになってもらう」には「ありがとう」の先を目指さなければなりません。

ホテルなどのサービス業がわかりやすい例なのですが、「ありがとう」をお客様から引き出せただけでは、「次も来てくれる」とは限らないですよね。

「ここまでしてくれるのか?」というくらいの寄り添いがなければ、「ファン」にはなってもらえない。
かといって、他社よりも「便利なサービス」を提供すれば「ファン」になってくれるのか?といったら、筆者は必ずしもそうではないと考えます。

1章を読まれた方ならすでに想像できるかもしれませんが、
ここでもサービスの「機能」ではなく、「意味」に着目することが重要になります。

筆者が「意味」づくりのキーワードだと考えるのが、「わざわざ」「無駄」です。

世の中がDXやAIによるオートメーション化を加速させ、「効率化」を推し進め、
理論的にはわたしたちの生活から「無駄」がどんどん省かれていっています。

しかし、わたしたちの生活は”無駄の多かった過去”と比べ「ゆとりある心豊かなもの」となっているでしょうか。
筆者を含め、多くの方が首を傾げるのではないでしょうか。

何が言いたいのかというと、
「効率化」の名の下に「無駄」として失われていったものの中に、わたしたちが欲するであろう「見えない価値」が存在しているのではないか?と考えるのです。

なぜならば、人間は動物とは異なり、生きる上で必要のない「無駄」をこよなく愛する生き物だからです。

例えば、音楽、美術、文芸、エンタメ全般やスポーツといったことは生きる上では必須ではないもの、つまり「無駄」です(あくまで生存に必要な衣食住以外という意味で)。

しかし、実際にわたしたちはそれらを心から欲する。なぜでしょうか。
わたしたちはそれらを必要とする「意味」を感じるからではないかと筆者は考えています。

先ほどのホテルやサービス業の例でいえば、「コミュニケーション」が挙げられます。
無人精算機は便利ではあっても、有人であれば生じていたかもしれない「コミュニケーション」の機会は失われてしまうでしょう。

筆者はこうした便利さの陰で消えていった価値の中にこそ「意味」があるのではないか?と思うのです。

さらに言えば、「意味」とは「人間的価値」ではないでしょうか。

先述したように、「意味」を持たせ、感じることのできるのは、わたしたち人間だけだからです。

「わざわざ」に関しては、ファンの心理を理解する上でも次のようなケースを想像してみてください。

出社すると、「おはようございます」と近寄ってきたのは、

有給休暇明けに職場に戻ってきた上司のKさん。

休暇中に旅行に行ってきたようです。差し出された彼女の手にはライトブルーの小袋。


お礼の言葉を返してから、自分のデスクへ。

少しドキっとしながらも、開けてみると……

個包装されたチョコクッキーが。そこには手書きのメッセージカードが添えられています。


「〇〇さん、業務以外にもいつも周囲の人のことを気にかけてくれてありがとう!〇〇さんのおかげで安心して楽しんでこれました!これからもよろしくね!(ビッグスマイルの顔文字)」


これは筆者自身の実体験です。

お昼休みに同僚たちに話を聞くと、チームのメンバー一人ひとりにKさんからあたたかいメッセージが添えられてあったそうです。

お土産を渡すことはあっても、個別のプレゼント用に再包装してさらに日頃の感謝を込めたメッセージカードをわざわざ用意するなんて……!

気づけば、筆者はKさんの部下であるとともに、Kさんの一ファンになっていました。その後の業務にも一層力が入りましたし、Kさんの力になりたいと思いました。

筆者が単純なのかもしれませんが、あの時の感動は今でも思い出せます。
もしかしたら、Kさんはこうした人の心理をよく心得ていたのかもしれませんね。

お土産を渡すことはおろか、綺麗に包装し直した上にメッセージカードを添える。

「やらなくても済んだかもしれないこと。でもやったら相手が喜んでくれそうなこと」をあえて「わざわざ」やる。

ここにこそ「意味」が生まれるのではないでしょうか。

何より「わざわざ」と「無駄」に潜む「意味」こそが感動をもたらす。「ファンづくり」の根幹があることをわかっていただけるエピソードではないでしょうか。

「ファンになってもらう」、「応援してもらう」というと何か難しいことのように感じるかもしれませんが、

実のところ、筆者は「惚れさせること」に近いのではないか?と考えています。なぜなら、「応援する・される」とは「愛する・愛される」ことにも近しい行為だと思うからです。

「これをしてあげたら、(あの人は)喜んでくれるかな?」と寄り添うことこそが、「応援すること」であり、「応援してくれる」ための第一歩なのです。

つまり、「応援してもらいたい」なら「まずは自分から相手を好きになり、相手の気持ちに寄り添う」ことが秘訣だと筆者は考えています。

「そんなこと言ったって、好きになれない相手だったらどうするの?」と思われるかもしれませんよね。
しかし、それは一人よがりな考えではないでしょうか。

主役は自分ではありません。相手なのです。
ビジネスにおいてユーザーや消費者が主人公なのと同じことです。

これはいわば「ファンづくり」の大原則といっていいかもしれません。
もちろん、「個人」だけでなく、「組織」においても大事にすべき「姿勢」でしょう。

3 「ファンづくり」におけるブランディングが果たす役割とは

3 「ファンづくり」におけるブランディングが果たす役割とは

「応援される存在」になるには、「意味」を持たせることが重要で、それは「感動」や「心を揺さぶる」ことによって、はじめて得られることをご理解いただいたかと思います。

ここからは「応援される組織」になる上でブランディングが果たす役割についてご紹介します。

1章1.の末尾でブランディングとは、「意味」を創造し、定着していくことだと述べましたが、漠然としたイメージをお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。

人は自分と「近しい価値観や考え」の持ち主、また「リアルな物語」に感情を動かされ、行動を促されやすいといわれています。

例えば、筆者はユニセフの募金活動に参加しているのですが、参加のきっかけは「戦地で苦しむある一人の子どものストーリー」でした。

「1000人の子どもが犠牲になっている」という定量調査の結果もそれなりに心を揺さぶるかもしれませんが、
より親近感を抱かせ、より強く心を揺さぶるのは「たった一人の子どもの声」だったりします。
ロジックやデータも大事ですが、数字だけでは人の心を揺さぶっても、行動を促すには不十分だったりするのです。

「客観的なデータ」は「客観」で終わる可能性が大きいのです。
「客観」を「主観」に変えるには、「定量調査」だけでは不十分で、「定性調査」も必要になるでしょうし、
また、「自分事」として受け止め、行動を促してもらうには、先述したストーリーをはじめとした「人間的な共感」があるべきだと筆者は考えます。

「人」と「人」とが関わり合ってつくり出されるのが商品やサービスです。そこには1章や2章で述べたような「意味」が大きく絡むのは必然だともいえるでしょう。

ブランディングでは、「共感」や情緒的な価値の創出をとても大事にします。ブランドがもたらす感情・価値観を整理し、現像して、消費者間に共感を生む施策を考え出すのです。

4 まとめ

長くなりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございます。
これまで述べてきたことを総括すると以下のようになります。

・「機能」よりも「意味」が高く評価されることで、「応援かち時代」が到来する

・「応援される」には「感謝」だけではなく、「心を揺さぶる」ことが不可欠。感情の喚起や移入を通した「感動」こそが「意味」になる。

・「ブランドに対する感情移入の創出」という役割を担うことから、ブランディングこそが「ファンづくり」に大きく貢献する


そして、最後に付け加えたいことがあります。

これはあくまで筆者個人の見方ではありますが、この世の中には大きく分けて4種類の人間がいると思っています。

①チャレンジし続けている人

②チャレンジしている人をサポートしている人

③チャレンジしている人を眺めている人

④何もせずただ評論家になっている人


組織で考えるならば、「人」→「組織」に置き換えてみても大きくは外れないでしょう。「組織は人なり」ですから。

あなたは自分をどのタイプの人間だと思いますか?
また、あなたならどのタイプを応援したいですか?

自分ならば①か②の人と一緒に仕事がしたいですし、応援したいと思います。否定はしませんが、③か④のタイプを応援したいという気持ちにはなれません。

「応援される存在」になるヒントは、こうしたところにもあるのではないでしょうか。

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