近年、音楽業界において生成AIが注目を集めています。
今回は、音楽における具体的な活用事例と、また、生成AIが音楽にどのような未来をもたらすのかについてお話しします。
DESIGNER
M.H.
はじめに生成AIについて簡単に説明します。
生成AIとは「深層学習(ディープラーニング)※1※1人間の脳の働きを模した方法でデータを処理するようにコンピュータに教える人工知能 (AI) の一手法。画像、テキスト、音声、その他のデータにおける複雑なパターン認識によって、正確な分析や予測を生成することができる。や機械学習を用いて、人が作るようなテキスト、画像、音楽、ビデオなどのデジタルコンテンツを自動で生成する技術」を指します。
従来のAIは、人が与えたデータを元に決められた範囲内で回答を導き出したり、予測を行ったりすることが主な役割でした。生成AIはディープラーニングを活用し、AI自身が学習を重ね、その結果得た特徴やパターンを元に新しいコンテンツを作り出します。
生成AIは、自らが獲得した学習成果から新たにコンテンツを創造する点で、従来のAIとは異なる優れた能力を有しています。
※1 人間の脳の働きを模した方法でデータを処理するようにコンピュータに教える人工知能 (AI) の一手法。画像、テキスト、音声、その他のデータにおける複雑なパターン認識によって、正確な分析や予測を生成することができる。
次に、生成AIが実際に音楽分野でどのように活用されているか、具体的な事例をご紹介します。
Suno AI
出典:https://suno.com/
Suno AIは、テキストから音楽を生成するサービスです。音楽制作の知識がなくても、歌詞や曲のイメージを入力するだけで、オリジナルの楽曲を作ることができます。
筆者も実際にSuno AIで曲を生成してみました。下記のリンクから試しに聴いてみてください。
https://suno.com/song/c3ab6b26-735a-464b-bf41-874ab1b81c8f
Chat GPT※2※2米OpenAI社によって開発された、人間との対話に近い自然な文章を生成するAIチャットサービスのこと。で夏をテーマにした歌詞を生成し、それをSuno AIに入力してみました。作業時間は1分もかかっていませんが、歌詞に合うメロディーやリズム、歌声、バンドサウンドが自動で生成され、本格的な音楽を作ることができました。
※2 米OpenAI社によって開発された、人間との対話に近い自然な文章を生成するAIチャットサービスのこと。
Dear Glenn - ヤマハ株式会社
出典:https://www.yamaha.com/ja/stories/new-values/dear-glenn/
Dear Glennは、天才ピアニストであるグレン・グールド※3※3カナダのピアニスト、作曲家。20世紀でもっとも個性的なピアニストと称されている。バッハの「ゴルドベルグ変奏曲」の録音で、それまでのバッハの演奏を一新し、人気を博した。の演奏を再現するシステムです。生成AIを用いることで、未演奏曲でも楽譜のデータさえあれば、すぐに演奏することができます。このシステムは、グールドらしい演奏を生成するAIソフトウェアと、自動演奏機能付きのピアノから構成されています。
※3 カナダのピアニスト、作曲家。20世紀でもっとも個性的なピアニストと称されている。バッハの「ゴルドベルグ変奏曲」の録音で、それまでのバッハの演奏を一新し、人気を博した。
演奏動画はこちら
Dear Glennと合奏する演奏家たち
出典:https://www.yamaha.com/ja/stories/new-values/dear-glenn/
また、Dear Glennを用いて、現代のヴァイオリン奏者などとの“時空を超えた合奏”を披露する取り組みも行われています。
クラシック音楽が好きな方なら、一度はグレン・グールドの演奏を聴いたことがあると思います。グールドの特徴的な奏法や解釈をAIで再現できるのはとても興味深いですね。
生成AIによって作られた音楽の著作権は、その権利が誰に帰属するのかが大きな問題となっています。著作権法は通常、人間の創作活動を保護することを目的としていますが、AIが生成した作品の場合、権利の所在が不明確であることが多いです。
AIの開発者、AIを使用したユーザー、あるいはAI自体が権利を持つべきか、国によって見解が異なり、各国の法律や判例もまだ発展途上です。
この点については、今後さらに議論が進むと考えられます。
生成AIの発展は、音楽に大きな変化をもたらしています。
特に「作曲」の分野で、生成AIの存在感が増しています。生成AIが作曲家を淘汰するのではないかという懸念もありますが、私は「淘汰」ではなく「共存」という未来が望ましいと考えています。
例えば「写真」の登場は、写実的な絵画の価値を揺るがしましたが、絵画にしか表現できない独自の価値が見直され、絵画はその新たな価値をもとに存続していきました。同様に、音楽においても「レコード」の普及が、それまでのコンサートの在り方を変えました。人々はコンサートに行かなくても、同じ曲を何度も楽しめるようになり、その結果コンサートは、演奏の再現性よりも、演奏者の自性や個性を表現する場へと進化していきました。
歴史を振り返ると、新しい技術は、既存の芸術を淘汰するのではなく、新たな表現の可能性を広げる役割を果たしてきたことが分かります。生成AIも同様に、音楽に新しい価値を創造する手段として活用されていくと考えられます。
生成AIの活用により、これまで長い時間と労力が必要だった作曲作業が驚くほど効率化されました。それでもなお、人間の持つ創造力や感性は、依然として重要な価値を持ち続けています。
生成AIが新たな音楽の可能性を広げる中で、私たちはその技術をどう活用し、どのように共存していくかを考える時代に突入しました。
生成AIと人間が共存していくことで、音楽の未来がより豊かになることを期待しています。
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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