企業経営のキーワードとして、近年よく聞く「パーパス」。実は何のことかよく分かっていない…という方も多いのではないでしょうか。ここでは、パーパスへの理解を深めるため、ポイントを絞って解説します。
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M.S.
これから以下の4つのポイントを順番にまとめていきます。
(1)パーパスの定義
(2)パーパスが求められる時代背景
(3)個人にとってのパーパス
(4)パーパス経営の事例紹介
パーパス(Purpose)は、直訳すると「目的」ですが、企業経営と絡めた場合には「存在意義」「存在理由」などと訳されます。よりわかりやすく表現すると、「企業が何のために存在するのか一言で表したもの」です。
パーパスと似た概念に、ビジョン・ミッション・バリューズがありますが、これらとパーパスの違いは何でしょうか。
ビジョンとは、会社が実現したい「未来」を表現した言葉です。一方パーパスは、過去、現在、未来まで含む時間軸の中で会社が存在している理由を表現しています。ビジョンが未来に向かっていくものであるのに比べ、パーパスはもっと根源的で、会社にとっての原点を表すものなのです。
次にミッションですが、ミッションは特にパーパスに近い考え方です。この違いについてはさまざまな解説が存在していますが、中でも筆者が納得したのは、ミッションは「取り組むべきこと」のように外部に対して働きかける意味合いが強いものであるのに対し、パーパスは企業の中から生まれてくる「想い」であり、「企業の志」を表現している、という説明でした。パーパスは、共感を生み、社内外に企業のファンを増やすものです。そして、そのパーパスを根源として、企業が果たすべきこと=ミッションが発生してくると考えるとわかりやすいと感じましたが、いかがでしょうか。
バリューズは企業が大切にする価値観を言語化したもののことです。こちらは具体例で見てみるとわかりやすいと思います。SONYの「Sony’s Purpose & Values」を見比べてみましょう。
画像引用:『ソニーグループについて Sony's Purpose & Values』
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/purpose_and_values/
ここからもわかるように、パーパスはあくまでも「企業のあり方」を表すものです。一方、バリューズは企業のユニークな「人格」を表現するような言葉です。
なぜ今こんなにもパーパス経営が注目されているのでしょうか。
これには社会的な価値観の変容が大きく関わっています。1972年に国際的なシンクタンクであるローマクラブが「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と発表してから、今年で50年。社会課題が深刻化する今、企業が問題の解決に意欲的かどうか、注目している人が増えています。以前のように企業の利益だけを追い求めていては見透かされ、顧客に支持されない時代になったのです。
また、世界情勢も影響しています。コロナ禍や頻発する自然災害、デジタル化が進み物理的な制限が減っていることなどから、社会を取り巻く環境は刻一刻と変化し、予想ができません。難しい舵取りを迫られる中、消費者に自社のサービスを選んでもらうために、企業には唯一無二の価値が必要です。会社の存在意義を示したパーパスが定められていれば、それが判断基準となります。自社に適した施策を選択し、ブランド力を高めていくことが出来るでしょう。
さて、経営的な視点から少し外れて、企業で働く一人一人の「パーパス」についても考えてみます。個人のパーパスとは、特に働くことに着目して考えれば、「その仕事をする意義」となります。個人が生きがいを感じることができる仕事を選択できる時代となったため、一人一人がパーパスを持ち、それに従って仕事を選択することが大切になってきているのです。これは、未経験の業界への転職を経験した筆者にも実感があります。面接では当然志望動機を聞かれますが、これが個人のパーパスとしっかり結びついていることで、説得力が増しますよね。個人のパーパスが社の方針と一致しているか確認するための質問といってもいいくらいだと思います。
「でも、働く意義なんて、どうやって見つけたらいいの?」と感じる方も多いと思います。これは筆者の個人的な経験ですが、さまざまな仕事に関する価値観をリストアップし、自分なりに優先順位をつけて並べてみると、少しわかりやすくなりました。自分が大切に思うこと、比較的気にしないこと、などが明らかになり、相対的に理解することができます。お役に立てば幸いです。
パーパスに沿った仕事をすると、例えばこんな効果があると言われています。
パーパスが満たされるような会社に入社して働くとき、個人の満足度が上がり、パフォーマンスも良くなるので、会社にとっても本人にとってもよい状態になりますね。双方にとって幸福な関係性です。ここからも、企業は、姿勢に共感した人が集まってきたり、個人が「働く意義」をしっかり感じることができるように、企業のパーパスをしっかり提示してあげる必要があると言えそうです。
最後に、実際にパーパスを掲げている企業の実例を見ていきましょう。
海外の事例です。WarbyParkerは、2015年、アメリカメディアのFastCompanyが発表している「世界で最もイノベーティブな50社」というランキングで、GoogleやAppleを抑えて1位を獲得しました。「インターネットから生まれた最初の優れたブランド」と評価されています。なぜ、これほどまでに人気を集めることができたのでしょうか。
その理由の一つは、パーパスドリブンなWarbyParkerの経営形態にあります。彼らは「メガネは楽しく、簡単に購入できなければならない」という信念のもと、アイウェアの価格帯を抑え、簡単に購入できるシステムを作りました。また、「見る権利は全ての人にある」というスローガンを掲げ、「Buy a pair, Give a pair」というプログラムを実施しています。WarbyPeakerのメガネを買うと、慈善団体を通じて、メガネが発展途上国に寄付される仕組みです。これらの取り組みが多くの人々に支持され、売上業績を伸ばし続けています。
この事例からは、パーパスを軸として一貫した姿勢で事業を展開したことで、人気ブランドに成長したことがわかると思います。嘘臭くない、企業に根付いた考え方から生まれた言葉を発信することで、ファンを獲得した好例です。
画像引用:『Warby Parker』
https://www.warbyparker.com/
日本でも商品が購入できる事例としては、ヨーロッパ初のファッションブランド・ECOALFを紹介します。ECOALFは、「BECAUSE THERE IS NO PLANET B(第二の地球はないのだから)」を合言葉に、全てのアイテムをリサイクル素材や環境負荷の低い素材でつくっています。ファッション業界が天然資源を大量消費していることに危機感を持ち、真にサステナブルなファッションブランドを目標にして、2009年にスペインで誕生しました。
外見からはリサイクル素材から作られているとはわからない技術を使っているため、地球にやさしくおしゃれなファッションを楽しむことができます。海洋プラスチックゴミを回収して洋服として新たな命を与えるプロジェクト「UPCYCLING THE OCEANS」は、これまでにない生産サイクルを構築しているとして注目を集めています。
先の事例でもあるように、形だけのパーパスを策定して終わるのではなく、具体的な事業にそのエッセンスが見えていると、企業を応援したくなりますよね。
画像引用:『ECOALF』
https://ecoalf.jp/
3つ目の事例は日本のベンチャー企業「株式会社Lily Medtech」です。『「乳がんと闘う」この言葉のない世界を目指して』という印象的なフレーズを掲げながら、乳がん検診を気軽に受けることができる装置を発明・販売し、病気の早期発見に貢献している企業です。創業者の東志保さんは、高校生の時に母親を乳がんで亡くしています。その時の経験から、乳がんで人生の選択肢が減る人が少しでも減るように、と考え、起業するに至ったといいます。この志に賛同する人々の輪は広がっており、2019年にはアルフレッサ株式会社、アフラック・ベンチャーズ合同会社、株式会社三菱総合研究所などから9.3億円の資金調達に成功している他、2020年には、革新的な企業・社会課題を解決に貢献する企業を表彰する「Japan Venture Awards」の中小企業庁⾧官賞を受賞しています。LIly Medtechはパーパスとしてフレーズやストーリーを表現しているわけではありませんが、根源的な想いに根ざした会社の言葉である点で、パーパス経営の例と考えて良いのではないでしょうか。
画像引用:『Lily Medtech』
https://www.lilymedtech.com/
これまでパーパスについてまとめてきましたが、いかがだったでしょうか。
「パーパス」というと目新しい考え方のように思えますが、実は日本企業には昔から同様の考え方が存在していました。渋沢栄一氏の掲げる「論語と算盤」や、近江商人の「三方良し」(売り手によし、買い手によし、世間によし)、さらに松下幸之助氏の「企業は社会の公器である」※1※1引用:『世界が注目するパーパスブランディング。かつての日本企業では常識だった』https://prdx.co.jp/visions-prdx/purpose-branding/という考え方です。自社と社会や、会社と従業員の関係性について、日本では以前から重要視されていたんですね。
このように、実は日本企業にとって親しみのある概念だった「パーパス」。いま改めて捉え直し導入することで、時代に即した経営の方法について考えるヒントになるかもしれません。
【参考文献】
伊吹英子・古西幸登(2022)『ケースでわかる 実践パーパス経営』日本経済新聞出版
齋藤三希子(2021)『パーパス・ブランディング ~「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える』宣伝会議
名和高司(2021)『パーパス経営: 30年先の視点から現在を捉える』東洋経済新報社
佐宗邦威(2021)『PURPOSEパーパス 会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか』組織の「存在意義」をデザインする ダイヤモンド社
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳(2021) 『働くことのパーパス』 ダイヤモンド社
参考:『今年最大の経営バズワード「パーパス」の本質 「新しい資本主義」の先の成長モデルを考える』
参考:『The Most Innovative Companies of 2015』
参考:『米国を代表するD2C企業「Warby Parker」が店舗拡大&廉価販売&寄付行為を続ける理由』
参考:『ECOALF』
※1 引用:『世界が注目するパーパスブランディング。かつての日本企業では常識だった』https://prdx.co.jp/visions-prdx/purpose-branding/
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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