乳幼児期から身近にPCやスマートフォン、タブレットなどの端末がある現代の子どもにとって、どのようなコンテンツ内容・デザインが「質がよい」とされるのでしょうか。 子ども向けデザインと大人向けデザインではどういった点が違うのか見ていきましょう。
DESIGNER
S.N.
みなさんは携帯電話やスマートフォンをいつから使いはじめましたか?
近年スマートフォンやタブレット端末の普及が急速に進み、幼児期からデジタルコンテンツに触れる時間(スクリーンタイム)が増えているといわれています。
米国小児学会(APP)が2013年に発表したガイドラインでは、「子どものテレビやゲームなどの視聴時間は1日2時間まで、2歳児未満の乳幼児であれば視聴しないほうがよい」とされていました。
しかし2015年のガイドラインでは、「問題なのは時間ではなく、コンテンツの質である」と改訂されています。
大人と違った子供の特徴を踏まえて、「質の良い」子供向けのデザインについて考えていきたいと思います。
子どもは遊びを通して学び、成長していきます。
子ども向けのコンテンツを制作する際、コンテンツに触れた体験がダイレクトに成長過程につながっていくことを意識して、作る責任が制作側にはあります。
そこで重要になってくるのが「UX(ユーザーエクスペリエンス)」です。
UXとは「ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験」を指します。
たとえば、子どもが野菜の名前を覚える知育アプリで遊ぶとき、アプリを通して野菜の名前を覚え、嫌いだった野菜が食べられるようになるかもしれません。
子どもにとって好ましいデザインや操作性はアプリ自体を楽しませることを前提として、コンテンツを軸とした一連の体験や感情はUXに含まれています。
質の高いUXを子どもたちに届けるためには、ターゲットとなる子どもについての深い理解と考察が必要です。
ここから、具体的な子どもの特徴を見ていきましょう。
子どもは短い期間の中でも、めざましく成長していきます。
教育分野の先駆者であるスイスの心理学者ジャン・ピアジェの認知発達理論によると、子どもの成長段階は次の4段階に分けられます。
子どもの成長には個人差がありますが、12歳ころになるまでに少しづつ論理的な思考能力を身につけ、アイコンやシンボルなどの抽象的な概念も大人と同じように認識するようになります。
成長過程にある子どもは、大人ほど手先が器用ではありません。
指先を使った細かい動作ではなく、子どもでも簡単にできる動きを考える必要があります。
ふだん私たちがアプリを使っていると、エラーや問題が発生したときに警告として音が鳴ったり画面の色が変わったりすることがあります。
これは特定の目的を持ってアプリケーションを使っている大人にとっては、自分のミスを教えてくれる重要な機能です。
一方で、アプリの操作そのものを遊びとして楽しんでいる子どもは、1つ1つのアクションに対するフィードバックを好みます。
メールをチェックする時にボタンをタップするだけで毎回音が鳴ったり、キャラクターが飛びだしてきたりと、大人にとっては必要性の薄い仕掛けも子どもには喜ばれます。
子ども向けコンテンツではコンテンツを使うのは子どもですが、購入するのは保護者です。
内容が子どもにとって魅力的でも、保護者が「子どもには使わせたくない」と判断する場合もあります。
そのため、保護者の視点も考慮してコンテンツの内容を考え、デザインしていく必要があります。
数多く配信されている子どもの知育アプリの中でも、おすすめのアプリを3つご紹介します。
音・色・形の変化を通して、日常モノへの興味を育むアプリです。Google Playの2015年ベストアプリの一つとして選ばれています。
電話の番号を押してみたり、目玉焼きを焼いてみたり、タンポポの綿毛をとばしてみたり、すべての操作は乳幼児でもタッチするだけで簡単にできるようになっています。
画面を見てみると、色づかいは子供でも認識しやすいはっきりとした色ですが、タッチで操作する部分が目立つよう背景はシンプルに作られています。
また、一つの操作ごとに効果音が鳴ったり文字が飛び出してきたり変化があるため、アプリの内容がわからない乳幼児でもタッチする操作そのものを楽しむことができる作りになっています。
変化があるごとに「変わったね」「音が鳴ったね」などと保護者が反応することで、操作している子どもはより達成感がわき、親子で楽しむことができます。
絵カードを触ることで、ものの仕組みや名前、色、形を自然に学ぶことができるアプリです。2013年度にグッドデザイン賞を受賞しています。
まずトップ画面を見てみると、ボタンが動いています。
とくに乳幼児は画面上のアイテムが3次元ではなく全てフラットに見えてしまう特徴がありますが、動きを加えることによってボタンが背景とは区別され、子どもに触りたいと思わせる仕掛けになっています。
「あそぶ」ボタンからプレイをはじめると、遊び方や操作の説明がないことに気づきます。
決められた手順やステップもないため、まだ字が読めない幼児でも好きなように遊びはじめることができます。
さらに、絵カードでウクレレを弾いていたと思ったらいきなり弦が切れたり、スイカの中からカブトムシが出てきたりと、大人もにも子どもにもちょっとびっくりな仕掛けが散りばめられています。
アメリカで親が選ぶアプリ賞の受賞歴も多いToca Boca社から配信されているお料理アプリです。Google Playの2015年ベストアプリの一つとして選ばれています。
このアプリのおもしろいところは、料理の手順にルールがないところです。
三人のキャラクターから一人選ぶと、そこからの調理時間はプレイヤーの自由。
冷蔵庫にある好きな食材をフライパンで焼いたりミキサーにかけたり、意外な組み合わせの調味料をかけたりもできます。
作った料理の出来ばえによって、食べたときのキャラクターの反応も違うので、毎回どんな顔をするか試してみたくなる仕組みになっています。
アプリ画面を見てみると、操作できない背景の要素(壁側に並んでいる調理器具、時計、窓など)が操作のメインとなるアイテム(食材、調理器具、キャラクター)と同じくらい作りこまれています。
こうしたにぎやかなデザインは画面上のすべての要素が平面的に見えてしまう乳幼児にとっては複雑なので、特別な区別(大きさが目に見えて異なる、重要な部分だけ色付き、触らなくても動いているなど)がなくても要素の重要度がある程度判別できる5歳児以降におすすめです。
5歳頃になると、ルールに沿うよりも自分のやり方で遊びたがる傾向があるので、好きなように奇想天外な料理を作れる点でもおすすめです。
いかがでしたでしょうか。
子どもにとって遊びであり学びにもなるデジタルコンテンツ。
単に大人向けのデザインを簡略化すればよいのではなく、子どもの行動を綿密に観察して作られていることがわかります。
子どもたちに楽しんでもらえることはもちろん、成長への影響にも十分に考えて質の高いUXを届けられるよう、デザインを工夫していきたいですね。
デブラ・レヴィン・ゲルマン、『子どものUXデザイン』ビー・エヌ・エヌ新社 2015年
山崎和彦 他『エクスペリエンス・ビジョン』丸善出版 2012年
『こどもとデザイン』ビー・エヌ・エヌ新社 2015年
参考:APP(米国小児学会)の子供のスクリーンタイムの調査(英語)
参考:タッチ!あそベビー
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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