みなさんペドロ・アルモドバルという映画監督をご存知ですか? スペインの巨匠と呼ばれる彼の作品は、写真を切り取ったようでとても印象的です。 今回は色彩の視点から彼の作品の魅力をお話しします。
DESIGNER
Y.T.
ペドロ・アルモドバルはスペインの田舎町出身。
息子を失った母親を描いた『オール・アバウト・マイ・マザー』で多くの賞を受賞。
『トーク・トゥ・ハー』で、フランス映画『男と女』(1966年)以来となる非英語映画のアカデミー脚本賞を受賞するなど、スペインを代表する映画監督の一人となった。(wikipediaより)
独学で映画作りを学び、彼自身同性愛者と公言しており、映画作品は「人間の欲望や情熱」「家族」「個人のアイデンティティ」「性」つまりジェンダーをテーマにしたものを数多く作り続けています。
スペインの国旗は赤と黄色がメインの、差し色に青、白、ピンクが使用されています。
赤色と黄色は明るく、情熱的で、危険な印象を与えます。
私が想像する「情熱の国スペイン」のイメージにぴったりな色づかいです。
ペドロ・アルモドバルの映像には、国柄が出ている配色がみられます。
カラフルで、はっきりとした色が混在しており、かつそれぞれの色が調和しています。
次は、映画での印象的なシーンと一緒に色についてみてみましょう。
妻を失ったミステリアスな整形外科医が、自ら開発した人工の皮膚を移植し、妻そっくりの美女を
創り上げるという愛と狂気に満ちた衝撃的なヒューマンサスペンスストーリーです。
ストーリーが進むにつれ謎が次々と明かされ、驚愕の事実が判明していきます。
華麗な衣装を手がけたのは「キカ」でもスタイリングを担当したジャン=ポール・ゴルチエ。
退廃的でエキセントリック、そして官能美あふれる映像に目を奪われますが、最後には力強い人間愛を表現していきます。
お手伝い「マリリア」が息子に銃を向けるシーンのキッチンの色を見てみましょう。
白と青がメインの中に、赤と黄色が差し色に使われています。
ストーリーはシリアスな場面ですが、差し色の赤と黄色が画面を鮮やかに構成し、コントラストを対比させることで全体の印象を引き締めています。
マリリアの服の色にも注目です。
彼女のエプロンが深い赤色で、キッチンの配色を邪魔していません。
むしろエプロンの色が彼女の存在をはっきり印象づけています。
色が持つ印象を色彩感情といいます。
赤、黄色という警戒色を意図的に取り入れることでストーリー、つまりサスペンスにおいて重要となる「危険」な展開を予兆しているのです。
このシーンは青と黄色がメインで、差し色に赤が入っています。
ここはマリリアの衣装の色が重要になります。
濃い青色の食器に映える黄橙のシャツ色は色相環(しきそうかん)の対角線にある色合いです。
色相環が示す真反対に位置する色は配色用語でいう「補色」といわれ、お互いの色を目立たせる効果があります。
対比が最も強く刺激が強くなるため、色のバランスが重要になります。
深い青色が食器のみなので、バランスよくお互いの色を目立たせていますね。
画面全体に青色が多いですが、マリリアの黄橙が際立ち鮮明に見えますね。
マリリアの衣装が黄色でなければ、背後にみえるキッチンに置いてあるものの色は
違う色になっていたのか?
映像の細かいところにも色に対する意識が強く感じられます。
映像ではそのほかにも実は「色相対比(しきそうたいひ)」と「面積効果」という手法が使われていて「色相対比」は隣に配置する色次第で、本来の色と違ってみえる現象を取り入れて色の調和を図り、「面積効果」で面積の大小で色の見え方がかわる手法が取られています。
若くして成功した映画監督の「エンリケ」と舞台俳優の「イグナシオ」の神学校での少年時代の回想録です。
2人の青年の過去から現在に至る壮絶な愛と裏切り、渦巻く欲望をスリリングに描いた、これもまた強烈な作品です。
少年時代のアルモドバル自身の体験をもとにした半自叙伝的映画だといわれています。
イグナシオがエンリケの家に訪れたシーン。
主張の強いヴィヴィッドな色がそれぞれ配置されていますが、どことなくまとまった印象を受けます。
この映像では配色用語でいう「レピテーション」という手法がみられます。
レピテーションとは、統一感の欠ける2色以上の配色をひとつの単位としてリピート、つまり繰り返すことで調和を生み出す方法です。
このレピテーションはデパートの紙袋や包装紙などにも使われています。
ソファ、灰皿の色が赤系の色でタオル、台の色が青系の色合いになっている。
赤系と青系の色のセットが3つあることで、レピテーションの効果が出て画面がまとまりのあるものになっています。
14年前、映画監督として活躍していた「マテオ」と女優になる夢を追う「レナ」の恋愛ドラマです。
彼女は富豪「エルネスト」の愛人で、彼女をめぐり嫉妬と行きすぎた愛が悲劇的な事件を起こします。
事件をきっかけにマテオは過去を封印し、脚本家ハリーとして人生を送っていたが、富豪「エルネスト」の息子により事件の真実を知りマテオとしてもう一度人生と向き合う。
「抱擁のかけら」では、赤色が目を引くシーンが多く、また青と赤の対比が多いです。
赤色などの暖色系で鮮やかな色は興奮感を与え、青などの寒色は鎮静感を与えます。
全く逆の特性を持つ2色です。
映画の内容も緊張と静寂を行き来する、2つの特徴があります。
色が人に与える影響についてご紹介します。
赤は最も人の目を引き記憶されやすい色で、また最も官能的な色で欲望を刺激します。
挑発的で情熱を引き起こす誘惑的な色です。
青は鎮静効果のある色で、怒りや興奮を鎮め心を平静にする特性があります。
また、青のような寒色系の色は静的なエネルギーを持っているため、閉じ込めるような憂鬱で息苦しい印象を与えます。
上のシーンは富豪エルネストにレナが別れを告げたシーンです。
彼女の服は赤、寝具のシーツは青色で、ここでも赤と青の対比が目に付きます。
彼女の服の色は、決意や彼女自身の力強さを強調しています。
またシーツの青色は、レナがエルネストに別れを告げたことにより次の展開が明るいものではないと感じさせるなにか恐怖感をそそるものがあります。
色が人に与える影響をみてみると、青と赤は反対の作用を人に与えます。
映画のシーンによって色を効果的に使い、ストーリーをより魅力的に作っていることがわかります。
今回は「わたしが、生きる肌」「バッドエデュケーション」「抱擁のかけら」の3つの作品をもとにペドロ・アルモドバル作品の色彩美についてご紹介しました。
なんとなく置かれているように見える家具、セットも色の緻密な構成を隅々まで意識していることがわかります。
この作品を注意深くみてみると随所に監督の色彩に対する緻密に計算し尽くされた美が表現されています。
夏も終わり涼しくなって、哀愁を感じるこの時期にぜひ、ペドロ・アルモドバルの作品を一度じっくりご覧になってはいかがでしょうか。
引用:「わたしが生きる肌」DVD映像キャプチャー
引用:「バッドエデュケーション」DVDパッケージより抜粋・DVD映像キャプチャー
引用:「抱擁のかけら」DVD映像キャプチャー
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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