デザインの方向性を決める上で、重要な構成要素であるフォント。 今回は、欧文フォントの定番であるHelveticaの歴史や特徴をご紹介します。
DESIGNER
K.K
Helveticaは、1957年にスイスのタイプフェイスデザイナーであるマックス・ミーディンガー(画像左)とエドアード・ホフマン(画像右)によって作られました。
2人は当初Neue Haas Groteskという金属活字※1※1通常、鉛を主体とした合金で鋳造された金属片のこと。
組み合わせて活字を並べ、インクを乗せて紙を押し付けることで文字の印字ができる。を共同制作していました。
Helveticaは、このNeue Haas Groteskをよりグローバルで親しみやすい名前に変更して、発売されたフォントです。
※1 通常、鉛を主体とした合金で鋳造された金属片のこと。 組み合わせて活字を並べ、インクを乗せて紙を押し付けることで文字の印字ができる。
引用:
Research Journal「Max Miedinger」
MULTIMEDIAMAN「Eduard Hoffmann: 1892 – 1980」
Helveticaを紐解くために、1950年代のスイスのデザインスタイルについて少し触れてみましょう。
1950年代のスイスは他ヨーロッパ諸国同様に近代化が進み、ポスターやチラシ・新聞・雑誌広告などの商業印刷が広まっていました。
デザインの概念が、芸術美から情報伝達へと変化したことで、可読性の高さとシンプルなカラーリングが特徴であるスイススタイル※2※2清潔感・可読性・客観性の3大規則を持ち合わせたグラフィックデザインの様式のこと。
サンセリフ書体、左揃え右ラグ組みレイアウトなど特徴を持つ。が一世を風靡しました。
見やすく伝わりやすいデザインが求められる時代背景の中、クセがなく可読性の高いHelveticaは "時代にフィットしたフォント" として支持されていました。
※2 清潔感・可読性・客観性の3大規則を持ち合わせたグラフィックデザインの様式のこと。 サンセリフ書体、左揃え右ラグ組みレイアウトなど特徴を持つ。
Helveticaの特徴を見てみましょう。
フォントそのものに大きな特色を持たず、普遍的でどんなシーンにも馴染みやすいオールマイティ選手、といったところでしょうか。
スパッと水平方向に切られたストローク※3※3[英:stroke]文字の流れ、文字を構成する一本の線のこと。の端に、無骨さや無機質さを感じます。
このストローク処理は、Helveticaの類似フォント Arialとの見分け方としても着目される点です。
※3 [英:stroke]文字の流れ、文字を構成する一本の線のこと。
また、アパチャー※4※4[英:aperture]フォントの開口部と形状の開き具体のこと。
が比較的狭く作られています。
同じくサンセリフ体の定番フォントFuturaやMyriadと比較してみましょう。
Helveticaはアパチャーの開きが狭いことでやや柔らかさやデザイン性に欠けます。しかしそれにより、アルファベット単体の個性が抑えられ、可読性を高めています。
※4 [英:aperture]フォントの開口部と形状の開き具体のこと。
大文字のRや小文字のaは、Helveticaの特徴を強く表しています。
Rにおいてはカーブのあるレッグが目に止まります。
レッグが曲線を描くことでスペースを節約でき、隣の文字に干渉しないため均一にスペーシング※5※5文字間とも言われる、文字と文字の間隔のこと。が取れるメリットがあります。
※5 文字間とも言われる、文字と文字の間隔のこと。
サンセリフにおける小文字のaには2つの形があります。
Helvetica、Myriadは上部にフックのような装飾があり、Futuraは装飾のないシンプルな形です。
ここでも水平なストローク処理が徹底されており、一貫した規則性にきっちりとした印象を受けます。
フォントの特徴に続いて、私たちの日常で目にしているHelveticaについて見てみましょう。
JR東日本や、私たちBOELのスタッフもお世話になっている東急電鉄の英語表記にはHelveticaが使用されています。
通勤や通学で鉄道を利用される方は、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
身の回りの製品にもHelveticaが使われています。
Post-itやevianなどのロゴはHelveticaをベースとして制作されています。
Franfrancや無印良品、Panasonicのコーポレートロゴも、Helveticaがベースとなっています。
身の回りの様々な場所でHelveticaを見つけることができますね。
鉄道は、幅広い年代に利用されます。さらに近年インバウンドの急増により、海外の方の利用も増えています。
そのため鉄道の駅名標は、どんな年代でもどんな国籍の方でもハンデなく伝わる看板であることが求められます。
もし駅名標の英語表記がセリフ体の場合、エレガントな土地というパブリックイメージを伝えられるかもしれません。
しかし、横線が極端に細いため、アルファベットを正しく判別することが難しいかもしれません。
また、駅名標の英語表記が幾何学フォントだった場合を考えてみましょう。
デザイン性は高いですが、「i」と「j」の判別のしにくさから、海外の方は駅名を間違えて読んでしまうかもしれません。
Helveticaについて考察する中で、小文字「aiueo」の判読性※6※6文章の分かりやすさのこと。
文章の意味が正確に伝わるか、誤読させないかどうかを指す。に気がつきました。
日本語には必ず母音が存在するため、アルファベット表記にするとaiueoが多く使われます。
例えば、長い路線名の【京浜東北線】をアルファベット表記に変換すると、【Keihin-Tohoku Line】となり、必然的に母音の羅列が多くなります。
事例として、Futuraでのアルファベット表記をみてみましょう。
Futuraは正円、三角形、四角形をベースに構成されたフォントです。「u」や「o」の下部は正円をベースとして作られているため、パーツの形が類似しており、遠くから見ると「u」と「o」の判別が難しいことが分かります。
※6 文章の分かりやすさのこと。 文章の意味が正確に伝わるか、誤読させないかどうかを指す。
一方、Helveticaは「u」にステム※7※7茎や幹に相当する文字の縦軸のこと。があることで「o」と判別がつきやすいことが考えられます。
※7 茎や幹に相当する文字の縦軸のこと。
Helveticaが鉄道の駅名標でよく使われる理由が分かってきました。
Helveticaの判読性の高さにより、正しい情報の伝わりやすさや誤読のしにくさを実現していると考えます。
Helveticaについて、改めていかがでしたでしょうか?
フォントの歴史や特徴を知った上でフォントを選ぶと、デザインに説得力が生まれると思います。
日常に広がるフォント探しをすると、色々な発見がありとても楽しいです。
皆さんも周りを見渡して、是非素敵なフォントを探してみてください。
【参考書籍】
『欧文書体2 定番書体と演出法』著者 / 小林 章
『デザインワークにすぐ役立つ欧文書体のルール』著者 / カレン・チェン
『もじ鉄 書体で読み解く日本全国鉄道の駅名標』著者 / 石川祐基
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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