都市部と地方の経済的格差、人やモノなどのリソース流出による地方の後継者不足や産業衰退が問題になって久しく、これまで様々な取り組みが行われてきましたが、解決に至るにはまだまだ多くの課題が残されています。 そんな中、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し地域の独自性や魅力を高め、地方創生に繋げていく取り組みが注目されています。 実際の事例紹介とともに、その可能性について探っていきたいと思います。
DESIGNER
A.H.
DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」(引用:経済産業省)を指します。
DXの起源は、2004年にエリック・ストルターマン教授が提唱した、「人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こしたり、影響を与える変化」という概念です。日本においては2011年頃、IDC Japanが初めてDXという言葉を日本に紹介したことをきっかけに広まりました。そして英語圏で「DT」「DX」のいずれかで表現されていたデジタルトランスフォーメーションを、経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(2018)」 ※1※1令和4年9月に「デジタルガバナンス・コード」と「DX推進ガイドライン」を統合し、「デジタルガバナンス・コード2.0」として公表しています。 にて明確に「DX」と表記したことにより、DXという表記が日本で主流になりました。
※1 令和4年9月に「デジタルガバナンス・コード」と「DX推進ガイドライン」を統合し、「デジタルガバナンス・コード2.0」として公表しています。
DXと混同されやすい用語の一つに、「IT化」があります。
一般的にIT化とは、「情報技術を利用して業務プロセスを合理化し、効率を向上させること」を指します。
例えば、電話や文書のやりとりがメールやチャットに置き換わったのはIT化の一例です。「やりとりを行う」というプロセス自体は変わらず、ツールの導入によってそのプロセスの効率化が図られています。
それに対してDXは、「人々の生活をよい方向に変化させるような、製品・サービスやビジネスモデルの変革を起こすもの」を指します。
一例としてインターネットバンキングの場合、従来の銀行業務がデジタル化され、顧客は銀行の支店に行かずにオンラインで口座の管理や取引を行えるようになりました。これにより銀行は顧客に新たな価値を提供しています。
つまり単に「作業時間が減る」「プロセスを自動化する」だけでなく、デジタルテクノロジーを活用することでビジネス全体が根本的に変革し、新たな価値を生み出すことがDXであると言えます。
ここからは、実際にDXを活用した地方創生の取り組み事例をご紹介します。
7年に1度の善光寺御開帳に向けて実施されたプロジェクト。「デジタル技術を積極的に活用し、顧客の趣味嗜好や行動パターンを分析し、顧客満足度の向上によるリピーター増加に向けた仕組み作り」を目的に、Webサイトリニューアルを中心として来訪者の趣向にあわせたコンテンツを届け、再来訪の意欲を高める取り組みが行なわれました。
観光周遊アプリをはじめ、GPSと連動したイラストの地図で自分の位置を把握しつつ、近くのおすすめスポットも見ることができる「紙とWebのいいとこどり」を実現したデジタルマップ等のコンテンツを通じて、来訪者の行動パターンを収集・分析し、これまでのアンケート調査では見えなかったニーズを見える化できるようになりました。こうして収集したデータを次回の御開帳の際にも活かしていくことで、持続可能な地方創生に繋がっています。
ながの観光net
https://www.nagano-cvb.or.jp/
これまでのアパレル業界は、事業者や縫製工場・仲介業者などの様々な関係者で多重構造化しており、属人性の強さやコミュニケーションツールが煩雑なことによるミス・トラブルなどから、生産性の低さが業界全体の課題となっていました。
シタテルではそうした課題を解決するため、「sitateru CLOUD」を中心とした衣服製品生産のプラットフォーム事業を提供しています。衣服生産の過程における情報管理と工場とのコミュニケーションを一元化することで、「業務の管理・見える化」「取引の効率化」「サプライチェーンの最適化」を可能にし、アパレル業務の生産性向上を実現しました。
さらに小規模なブランド・メーカーなどの発注者と、国内の熟練技術と経験を持つ職人や縫製工場をマッチさせるプラットフォームによって、発注者側の負担を軽減しながら地方の縫製工場の活性化にも貢献しています。
商品(モノ)よりも生産者の方々(ヒト)にフォーカスを当てた、福島県の通信販売サイト。利便性や商品の価値・価格を追求してきた従来のECサイトとは対象的に、生産者への共感・関心を入り口とした「売り手と買い手の長期的な関係づくりを支援するEC(Emotinal Commerce = 情緒的取引)サイト」です。
商品情報の前に生産者の日常エピソードを掲載したり、使い捨てカメラで撮った写真や生産者の手書きの文字を使用することで、生産者の人となりが伝わるサイトになっています。購入商品には生産者が考えたおまけやお礼状が添えられるなど、単に物を買うというよりも 「仕送り」を貰うような感覚で購入することができます。また「名言・名場面からさがす」では、商品ではなくさまざまなシオクリビトの写真や言葉の中から気になるものを選ぶという、これまでとは一味違う購入体験ができます。
こうした体験を通じて地域とのつながりが生まれ、新たなコミュニティの形成やファンの獲得、観光・移住需要の喚起による地域活性化が期待できます。
シオクリビト
https://shiokuribito.com/
全国300箇所以上の空き家を生活拠点として提供するサブスクリプションサービス。月額980円で地域の人との食事会や年2回までのお試し滞在が楽しめるプランをはじめ、ワーケーションや多拠点生活・お試し移住など、目的に合わせて全国各地の家に滞在することができます。
地方移住に関心があるものの、完全移住や家の購入はハードルが高いという若者にとって、サブスクリプションでの提供は気軽に移住や多拠点生活を試すきっかけとなっており、2023年11月時点で会員数は創業時の約20倍となっています。
またこのサービスでは「人とのつながり」を最重要視しており、一棟貸切ではなくシェアハウス型で提供することによって会員同士のコミュニケーションを促進しています。
さらに地域と滞在者をつなぐ「家守」「街守」からのサポートや、地域住民との関わり、ADDress会員同士が共通の趣味で繋がれる「部活」など、ADDressの家を起点としたコミュニティづくりによって、空き家に悩まされる地域が魅力ある拠点として新たに価値づけられています。
ADDress
https://address.love/
私たちBOELが伴走支援したブランディング事例として一つご紹介します。
函館空港のブランディングプロジェクトです。
当時のWebサイトは公開されてから長い間改修されることなく運用していたため、インターフェースデザインとWeb技術が時代にそぐわないものとなっていました。そのため、多くの利用者から存在を認知されていない状態でした。
そこでWebサイトにリアルタイムのフライト情報を新たな機能として入れ、データをシームレスに連携し、空港に出ている情報と同じものがどこにいても簡単に見ることができるようにしました。
利用客にとっての利便性はもちろん、地元のバスガイド・タクシー・旅館・ホテルなどの観光に関わる方々がフライトの遅延情報からお客様の到着時間を想定できるようになり、サービス向上の一助となることができました。
また函館の魅力を伝えるための観光案内情報を新たに増やしたことで、空港を起点とした観光促進に繋がっています。
DXによる地方創生についてご紹介してきました。
どの事例も地域の強みやリソースを活かした取り組みで、SDGsの観点からも参考になる点が多々あったと思います。
皆さんの住んでいる地域にはどんな強み・魅力があるでしょうか。
そしてその魅力を、DXによってどのように価値づけしていくことができるでしょうか。
持続可能な地域社会に向けて、共に考えていきましょう。
参考: 『DXの定義の変遷』
参考: 『地方創生に成功した10の好事例から学ぶ!生産性向上の道とは?』
参考: 『2022グッドデザイン賞 人柄にじむ福島通販|シオクリビト』
参考: 『持続可能な観光先進都市を目指して。ながの観光コンベンションビューローの長野市観光DX推進プロジェクト』
参考: 『PRTIMES 月額980円から利用できるコミュニティプラン新設!来春、海外30か国に展開へ』
『ウェブデザイニング vol.198』株式会社マイナビ出版 2019年10月出版 第19巻第5号通巻199号
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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