今回は vol.106 STAR WARSから学ぶブランディングで伝えきれなかった、 スターウォーズが約40年もの間ファンを離さなかった理由と秘密を題材に、ブランディングについてお話しします。
DESIGNER
C.Y.
前回vol.106 STAR WARSから学ぶブランディングでお話ししたSTAR WARSにおけるビジョンとミッションについて、一度確認します。
ビジョン = 魅力的で手を伸ばしたくなる世界観
冷戦真っ只中の暗く重たい時代のアメリカで、多くの国民が望んでいた幸せな世界というニーズを見抜き、魅力的な世界観を提示した。
ミッション = 競合と違った戦い方
「世界観を持ち帰らせる」という観点から、関連グッズの製作に力を入れたり、ファンムービーを受け入れるなど、他社とは違う戦略を実践した。
こんなにも長い間ファンが多い映画もなかなかないと思います。 ファンが好む世界観やファンの本当のニーズを把握し、具現化することで大ヒットを遂げたスターウォーズ。 「ファンの確立」こそが成功のキーワードだと言えます。
ブランドを作る上でも、顧客は最も大事な要素になってきます。 多くの人に支持されるようなブランドを作ることにおいて、ヒントが眠っているはずです。 それではスターウォーズがいかにしてファンを確立していったのか見ていきましょう。
多くのファンを獲得するということは、多くの人から理解と共感を得なければいけません。 そのために、広い対象に分かりやすい世界観を提示する必要があります。 これはブランディングにおいても同じことが言えると思います。
たくさんのファンを長年魅了し続けている世界観をどう作り上げたのか、 「分かりやすさ」と「共感」をキーワードに掘り下げていきます。
今となってはSF映画の代表作とも言えるスターウォーズですが、スターウォーズが公開される以前のSF映画といえば「猿の惑星」や「2001年宇宙の旅」など、小難しく、大人向けの、どちらかというとマニア向けのジャンルでした。
スターウォーズはそれを明確な善と悪、親子愛などのヒューマンドラマの要素を入れ込むことで、子供から大人まで楽しめる世界共通のコンテンツとしたのです。 それにより、多くのファンを獲得することに成功したと言えます。
そして、スターウォーズの代表的な特徴とも言えるのがキャラクターです。 キャラクターを語れずして、スターウォーズは語れないと言われるほど、映画の中では魅力的で個性あふれるキャラクターが、たくさん登場します。
スターウォーズの基本的な構成として主人公とその家族、主人公の師匠とその家族、など 単純に多くのキャラクターを出すのではなく、それぞれが繋がりのある構成で作られています。 よって、自分と近い立ち位置のキャラクターが確実に存在し、ますます共感を呼ぶ作りとなっています。
加えて、多くのキャラクターが存在するスターウォーズシリーズは、大枠のストーリーとは別に、小ネタが散りばめられていることでも有名です。 キャラクター一人ひとりには歴史があり、各々深掘りすることも可能ですし、 自分の好きなキャラクターにフューチャーして新たな物語をファンフィルムとして作ることも出来る。 こうした奥の深さに魅了されたファンが確立していきました。
かくいう私もスターウォーズの1ファンなのですが、私がはじめてスターウォーズの世界に触れたのは小学校1年生の時のことです。 映画好きの両親の影響でエピソード3の公開にあわせて1から観賞しました。 ダイナミックなオープニングと初めて触れる宇宙空間に圧倒され、一瞬でその魅力的な世界に引き込まれました。 当時6歳の子供だった私にもわかりやすい王道のストーリーももちろんのこと、動物が大好きだった私はチューバッカというモジャモジャした宇宙人のキャラクターに一目惚れし、ぬいぐるみや、そのキャラクターが描かれたコップなどを欲しがったといいます。 大人になった今では、キャラクターたちの歴史に触れることの楽しさを覚え、その奥の深さから抜け出せずにいます。
私はスターウォーズの戦略にはまってしまったユーザーの1人です。
スターウォーズが多くの人を魅了する理由をまとめると 1. の分かりやすさという広い入り口で獲得したファンを 2. の共感出来る深い世界で確率させていったということですね。
シリーズとして42年も続いたスターウォーズも、昨年の12月に最終章となるエピソード9が公開され、その長い歴史に休止符を打ちました。 スターウォーズは全9作、全て三部作になっているので大きく分けると三つの物語から編成されています。
この最新章一作目となるエピソード7が公開されたのは前作から10年たった2015年のこと。 実は公開当時、批判の声が殺到したのをご存知でしょうか。 「過去活躍した主人公達が全く輝いていない現在」「全く知らないキャラクターたちが中心の物語」に困惑するファンが多くみられました。
しかし、このファンの意見こそ、最新三部作でスターウォーズが見せた戦い方だったのです。
まず、前提として簡単にあらすじをご紹介します。
第一章 光の戦士ルーク、レイア、ハンソロ達が宿敵ダース・ベイダーと物語
第二章 ダース・ベイダーの過去の物語
第三章 第一章から30年後、謎の少女レイの物語
第一章、第二章共にメインの登場人物は同じだったことに対し、 今作第三章では急に謎の少女が現れ、ガラリと主要キャラクターが変わりました。それ故に、過去のキャラクターを大事に大事に愛していたファン達は困惑してしまったのでしょう。
実はここに、スターウォーズがファンを掴む戦略が隠されているのです。
最新三部作の戦略を大きく二つに分けてみました。 キーワードは、2パターンのターゲットが存在することです。
長年続いている大きな作品のデメリットは、前作を知らないから見ても分からないという現代を生きるユーザーが存在することです。 そこで今作のスターウォーズはオープニングから、全く新しい物語をはじめました。 初出演のキャラクター達の自己紹介、目的を明確にした1から始まる物語を描くことで、今回初めて見たユーザーにも楽しんでもらえるような構想にしたのです。
さらにスターウォーズは時系列になっていることから、今作を見て、続きの前の作品としてではなく、 キャラクターの過去を覗くように過去作も手に取れるのです。 今作からでもファンが入り込める 「入り口」を作り、新たなファン獲得の戦い方となりました。
1. の内容を見ると過去のファンに対してのアプローチが全くないように思えますが、 実は過去のファンの心をがっちり掴む要素がいたるところに散りばめられている作品なのです。
例えば、過去作の主人公はヒーロー2人、ヒロイン1人という構成だったのに対し、 今作の全く新しい主人公達も同じ構成になっていて、思わず昔の作品と重ねてしまうようになっています。 キャラクターの言動や、物語の構成に、過去作品のオマージュを加えることによって、懐かしさを感じさせることで、昔から応援しているファンにも楽しんでもらえる構想にしたのです。
ある番組でスターウォーズの最新作について、こう話している人がいました。 「近くの席で鑑賞していたご夫婦が、最後のシーンで手を繋いで見つめ合ってたんです。きっと若い頃一緒に一作目を見て、ずっと追って来て、スターウォーズと一緒に自分たちの思い出も思い出しているんだろうなぁ」と。
42年間の歴史の中で、スターウォーズは単純明快なストーリーとインパクト抜群の世界観を一度も変えることはありませんでした。 どれだけ深く物語を追いかけても、すべて1つの輪になるように。 どれだけ多くのキャラクターを生み出しても、みんなが同じ希望をみているように。 バラバラにみえて、実は物語のすべてがつながっているスターウォーズ。 だから昔から追いかけ続けているファンがいるし、途中から入ったファンも仲間はずれになることがないのです。
スターウォーズが長年ファンを絶やさない理由は、ユーザー一人ひとりの心に残るアプローチにあるのだと思います。
ここまで二度にわたってスターウォーズの成功の訳を、ブランディングに照らし合わせて見ていきました。 スターウォーズは公開当初「誰もが実は望んでいたことを、最も早く実現すること」で大成功しました。 そして、多くの人の心をつかんで飽きさせない創意工夫、ずっと長くにわたって愛されるようなユーザーへのアプローチで大成功をし続けました。
ユーザーや顧客の深いニーズを把握することが、ブランド成功の鍵になることも、同時にご理解頂けたでしょうか。 映画の内容と合わせて、ブランディングの大切なポイントを楽しくお伝えできていれば幸いです!
今日もあなたに気づきと発見がありますように
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